がんが体の広範囲に転移している場合、放射線治療(局所治療)ではすべての転移部位をカバーすることが難しくなります。
このような状況では、全身療法を中心とした治療アプローチを検討する必要があります。
本記事では、広範囲転移がある場合に推奨される治療法について詳しく解説します。
1. 広範囲転移における放射線治療の難しさ
放射線治療は、特定の部位に集中的に照射することでがん細胞を破壊する局所治療です。
そのため、転移が全身に広がっている場合、すべての病変を治療することが難しくなるという問題があります。
【放射線治療が困難な広範囲転移の例】
転移の種類 | 特徴 | 影響 |
---|---|---|
多発性の肺転移 | 肺に複数の転移病変が発生 | 呼吸機能の低下・呼吸困難 |
骨の広範な転移 | 骨の複数箇所にがんが転移 | 痛み・骨折リスクの増加 |
複数の臓器への転移 | 肝臓・腎臓・脳などに転移 | 各臓器の機能障害 |
全身のリンパ節転移 | 全身のリンパ節が腫大 | 免疫機能の低下・腫れ |
このようなケースでは、放射線治療を補助的に用いることはできても、がん全体を制御するためには全身療法が必要になります。
2. 広範囲転移に対する治療アプローチ
放射線治療は、局所治療として有効な治療法ですが、広範囲または原発巣を特定できていない場合には難しい治療です。
上記を踏まえて広範囲転移に有効とされる治療についてみていきたいと思います。
治療法 | 概要 | 具体的な治療 | 適応例 |
---|---|---|---|
全身療法 | 全身に広がったがん細胞を攻撃する治療 |
抗がん剤(化学療法): シスプラチン、ドセタキセル、フルオロウラシル(5-FU) 分子標的薬: イマチニブ(白血病)、トラスツズマブ(乳がん)、クリゾチニブ(肺がん) 免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬): ニボルマブ(オプジーボ)、ペムブロリズマブ(キイトルーダ) |
肺がん、皮膚がん、胃がん、白血病など |
局所放射線治療 | 症状を和らげるために局所的に放射線を照射 |
骨転移: ピンポイント放射線 脳転移: ガンマナイフ、サイバーナイフ(定位放射線治療) 腫瘍による圧迫症状: 局所照射 |
骨転移、脳転移、腫瘍による気道圧迫 |
骨転移治療 | がんの骨転移による痛みや骨折リスクを軽減 |
骨吸収抑制薬: ゾレドロン酸、パミドロン酸、デノスマブ(ランマーク) 放射性医薬品: ストロンチウム-89、ラジウム-223 |
前立腺がんの骨転移、骨折リスクが高い場合 |
緩和ケア | 痛みやQOL向上を目的としたケア |
痛みの管理: 医療用麻薬の適切な使用 症状管理: 吐き気・食欲不振のコントロール 心理サポート: カウンセリング、ホスピスケア |
進行がん、広範囲転移 |
臨床試験(治験) | 新しい治療法の試験への参加 |
新規分子標的薬: がん細胞特定の分子を標的 新規抗がん剤の組み合わせ: 既存の治療を改善する試験 個別化医療: 遺伝子解析による治療選択 |
標準治療が奏功しなかった患者 |
光免疫療法 | 光感受性物質を用い、特定の波長の光を照射することでがん細胞を選択的に破壊 |
特徴: 正常細胞への影響を抑え、副作用が少ない 併用療法: 免疫療法や分子標的治療と併用可能 |
手術・放射線治療が困難な患者 抗がん剤治療が限定的な効果しか得られない場合 |
3. まとめ
広範囲転移がある場合、放射線治療単独では治療が難しくなるため、全身療法を中心とした治療アプローチが必要となります。
全身療法(抗がん剤・分子標的薬・免疫療法)が第一選択 |
症状緩和目的で局所的な放射線治療を併用 |
骨転移には骨吸収抑制薬や放射性医薬品を活用 |
痛みやQOL向上のために緩和ケアを適切に実施 |
治験を検討し、新しい治療法へのアクセスを模索 |
がんの進行度や患者の全身状態に応じて、最適な治療法を選択することが重要です。
主治医やがん専門医と十分に相談しながら、個々に合った最適な治療戦略を見つけていくことが大切です。

【当該記事監修者】院長 小林賢次
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