甲状腺がんステージⅣにおける代替医療について
日本では、甲状腺がんは比較的まれな疾患となりますが、年間約18,000人が新たに甲状腺がんと診断され、約1,900人が亡くなっています。
甲状腺がんステージⅣ(末期がん)は、がんが甲状腺を超えて肺、骨、肝臓、脳、リンパ節などの遠隔部位に転移した進行性の状態を指します。
この段階では、頸部の腫脹、呼吸困難、嚥下困難、声のかすれ、体重減少、倦怠感、骨痛などが顕著であり、治療はがんの進行抑制、症状の緩和、QOL(生活の質)の向上を目指します。
甲状腺がんの主な原因は、放射線被曝、遺伝的要因、ヨウ素不足または過剰、慢性炎症などが挙げられます。
当ページでは、甲状腺がんステージⅣの特徴、標準治療の概要、そして代替医療、特に光免疫療法を中心とした治療選択肢について詳しく解説します。
代替医療とは
代替医療とは、標準的な西洋医学(手術、放射線療法、化学療法、分子標的薬、免疫療法など)に代わる、またはそれらを補完する治療法を指します。
代替医療には、科学的エビデンスが確立されていないものから、臨床試験で効果が検証されつつあるものまで幅広く含まれます。
目的は、がんの進行抑制、症状の緩和、QOLの向上、免疫力の強化などです。
特にステージⅣの甲状腺がんでは、標準治療の副作用が強い場合や効果が限定的な場合に、代替医療が注目されます。
代替医療の例には、光免疫療法、漢方、サプリメント、鍼灸、食事療法、心理療法などがありますが、今回は特に光免疫療法に焦点を当てて解説します。
ステージⅣ甲状腺がんの特徴と原因
ステージⅣの甲状腺がんは、TNM分類でM1(遠隔転移)に分類され、肺、骨、肝臓、脳、頸部リンパ節への転移が一般的です。
甲状腺がんは主に以下のサブタイプに分類されます:
乳頭がん(約80%、予後良好)、濾胞がん(約10-15%、転移しやすい)、髄様がん(約5%、遺伝性の場合あり)、未分化がん(約1-2%、極めて悪性度が高い)。
各サブタイプで転移パターンや治療応答性が異なり、以下のような症状が現れます。
●局所症状:頸部の腫瘤や腫脹、声のかすれ(反回神経麻痺)、嚥下困難、呼吸困難、頸部リンパ節の腫脹による圧迫感や痛み。
●全身症状:体重減少、倦怠感、発熱、貧血、栄養不良。
●転移関連症状:肺転移による呼吸困難や咳、骨転移による骨痛や病的骨折、肝転移による黄疸や腹部膨満、脳転移による頭痛や神経症状、リンパ節転移による頸部や四肢の浮腫。
発症の原因としては以下が挙げられます。
●放射線被曝:小児期の頭頸部への放射線治療や原爆被爆、チェルノブイリ事故のような環境放射線被曝が主要なリスク因子。特に乳頭がんや濾胞がんに関連。
●遺伝的要因:髄様がんの約25%は遺伝性(MEN2症候群、RET遺伝子変異)。家族性甲状腺がんや他の遺伝性がん症候群(例:カウデン症候群)も関与。
●ヨウ素摂取:ヨウ素欠乏地域での濾胞がん増加、過剰摂取による乳頭がんリスク上昇が報告されている。
●慢性炎症:橋本病(慢性甲状腺炎)や甲状腺腫が長期的な炎症によりがん化リスクを高める可能性。
●その他の要因:女性(男性の約3倍)、肥満、ホルモン異常、化学物質への曝露、免疫抑制状態。
標準治療の概要
ステージⅣの甲状腺がんに対する標準治療は、がんの進行抑制、症状緩和、QOL維持を目的とします。
以下に主な治療法の概要を説明します。
●手術:甲状腺全摘術や頸部リンパ節郭清が標準だが、ステージⅣでは遠隔転移により根治手術が困難な場合が多い。腫瘍減量手術や気道確保のための気管切開が行われることも。
●放射性ヨウ素療法(RAI):乳頭がんや濾胞がんの転移治療に有効。ヨウ素を取り込むがん細胞を破壊するが、未分化がんや髄様がんには効果が乏しい。
●化学療法:ドキソルビシンやシスプラチンなどを使用するが、効果は限定的。主に未分化がんや進行例に適用。
●分子標的薬:レンバチニブやソラフェニブ(チロシンキナーゼ阻害剤)が進行性乳頭がん・濾胞がん、未分化がんに使用。髄様がんにはバンデタニブやカボザンチニブが有効。
●免疫チェックポイント阻害剤:ペンブロリズマブやニボリズマブが再発・転移性甲状腺がんに試みられるが、効果は症例により異なる。
●放射線療法:外部照射(IMRTやSBRT)が骨転移や脳転移の症状緩和、局所制御に使用。化学放射線療法(CCRT)も選択肢。
●緩和ケア:疼痛、呼吸困難、嚥下困難、声の障害、精神的ストレスの管理に重点。経管栄養、鎮痛剤、心理的ケアでQOLを向上。
代替医療:光免疫療法
標準治療は効果的である一方、副作用が強く、ステージⅣの甲状腺がんでは治療効果が限定的な場合があります。
そこで、代替医療として注目されるのが光免疫療法です。
この治療法は、科学的エビデンスが蓄積されつつあり、特にステージⅣの甲状腺がんにおける新たな治療の可能性として期待されています。
光免疫療法とは
光免疫療法は、光感受性物質(薬剤)を投与し、特定の波長のレーザー光をがん細胞に照射することで、がん細胞を選択的に破壊する治療法です。
この治療法は、正常細胞へのダメージを最小限に抑えつつ、がん細胞を効果的に攻撃する点で優れており、ステージⅣの甲状腺がんにおける局所再発、頸部リンパ節転移、軟部組織転移などに適用可能な場合があります。
特に、甲状腺がんは頸部に位置するため、レーザー光の照射が比較的容易な場合が多いです。
光免疫療法の仕組み
1.標的薬剤の投与:光感受性を持つ薬剤を点滴で投与。EPR効果(増強された透過性・滞留効果)により、薬剤ががん細胞に集中的に集積。
2.光照射:近赤外線レーザーを体表面に照射。薬剤が集積したがん細胞で活性酸素が発生し、がん細胞を破壊。
3.免疫活性化:破壊されたがん細胞が免疫系を刺激し、全身的な抗腫瘍免疫応答を誘発する可能性。
光免疫療法の利点
●高い選択性:正常な甲状腺組織や周辺構造(副甲状腺、反回神経、気管など)への影響が少なく、副作用が軽減される。
●適応範囲:局所再発、頸部リンパ節転移、頸部軟部組織転移などに有効な可能性。
●QOLの向上:化学療法や放射線療法に比べ、声や嚥下機能への影響が少なく、高齢者や体力の低下した患者様にも適応可能。
●免疫効果:遠隔転移に対する追加的な抗腫瘍効果が期待される。
●標準治療との併用:分子標的薬(レンバチニブなど)や免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせることで、相乗効果が期待できる。
当院の光免疫療法に関する詳細な情報は、以下よりご確認いただけます。
その他の代替医療
光免疫療法以外にも、ステージⅣ甲状腺がんに対して以下の代替医療が検討される場合があります。
これらは科学的エビデンスの程度が異なり、標準治療を補完する形で使用されることが多いです。
●漢方療法:十全大補湯や人参養栄湯など、倦怠感の軽減や免疫力向上を目的に使用。科学的エビデンスは限定的だが、QOL向上に寄与する場合がある。
●サプリメント・食事療法:ビタミンD、セレン、クルクミン、オメガ3脂肪酸などが抗炎症や免疫強化を目的に研究されている。ただし、甲状腺機能異常がある場合、ヨウ素含有サプリメントは慎重に使用。
●鍼灸:頸部疼痛、化学療法による副作用(悪心・嘔吐)の緩和に役立つ可能性。ストレス軽減やQOL向上に寄与するが、がん進行抑制の効果は未確立。
●心理療法・マインドフルネス:がん患者様の精神的ストレスや不安を軽減し、QOLを向上させる。声の障害や外見変化による心理的負担を軽減するカウンセリングが有用。
●臨床試験における代替医療:がんワクチン、CAR-T細胞療法、オンコリティックウイルス療法などが臨床試験で検討中。これらは免疫療法の枠組みに近く、将来的に標準治療に組み込まれる可能性がある。
まとめ
甲状腺がんステージⅣは、遠隔転移を伴う進行性の疾患であり、放射線被曝、遺伝的要因、ヨウ素摂取異常、慢性炎症などが発症に関与します。
標準治療(手術、放射性ヨウ素療法、分子標的薬、放射線療法、緩和ケア)は有効ですが、副作用や効果の限界から代替医療も注目されています。
特に光免疫療法は、選択性の高さと副作用の少なさから、ステージⅣの甲状腺がん患者様のQOLを重視する有望な選択肢といえます。
この治療法は、局所再発、頸部リンパ節転移、軟部組織転移に対して有効であり、標準治療との併用で相乗効果が期待できる可能性があります。
代替医療の選択には、科学的根拠やリスクの評価が重要です。
当院の光免疫療法の適用可否については、お気軽にご相談ください。

【当該記事監修者】院長 小林賢次
がん治療をご検討されている、患者様またその近親者の方々へがん情報を掲載しております。ご参考頂けますと幸いです。