がん性腹膜炎とがん性髄膜炎の発症とそれらの治療法

がんが進行すると、がん細胞が広がり、腹膜(お腹の内側を覆う膜)や髄膜(脳や脊髄を覆う膜)に炎症を引き起こすことがあります。
これらの状態は、それぞれ「がん性腹膜炎」や「がん性髄膜炎」と呼ばれ、進行がんに伴う合併症の一つです。
がん性腹膜炎とがん性髄膜炎は、いずれもがん細胞が特定の部位に転移し、炎症を起こすことで発症します。
その結果、腹水の貯留、腸閉塞、神経症状、意識障害などが現れ、治療の選択肢が限られることもあります。
しかし、近年では新しい治療法の研究が進み、生活の質(QOL)を維持しながら治療を続けることが可能になってきました。
本記事では、がん性腹膜炎とがん性髄膜炎について、その原因、症状、診断方法、治療法を詳しく解説します。

1. がん性腹膜炎とは?

がん性腹膜炎の概要
がん性腹膜炎とは、がん細胞が腹膜に広がり、炎症を引き起こす状態です。特に、消化器系や婦人科系のがんが進行すると、がん細胞が腹腔内に散らばる(腹膜播種)ことで発症します。がん細胞が腹膜に付着すると、腹膜が刺激され、炎症や腹水の貯留を引き起こします。
がん性腹膜炎の原因
① 腹膜播種 腹腔内にがん細胞が「種をまいたように」広がる状態で、胃がん、大腸がん、膵臓がん、卵巣がんなどで起こりやすい。
② 腹水を介した転移 腹水に含まれたがん細胞が、腹膜の他の部位に広がることで転移する。
③ 手術や処置によるがん細胞の拡散 手術や腹水穿刺(腹水を抜く処置)により、がん細胞が広がることもある。
がん性腹膜炎の主な症状
① 腹水の貯留 腹部膨満感(お腹の張り)が強くなり、呼吸がしづらくなることもあります。
② 腸閉塞(イレウス) がん細胞が腸を圧迫し、食べ物やガスが通りにくくなる。吐き気、嘔吐、便秘が発生します。
③ 腹痛 腹膜が刺激され、慢性的な痛みが出ることがあります。
④ 食欲不振・体重減少 消化機能が低下し、栄養が十分に吸収されなくなります。
がん性腹膜炎の診断方法
① CT・MRI検査 腹水の有無や腹膜の肥厚(厚みの増加)を確認します。
② 腹水細胞診 腹水を採取し、がん細胞の有無を顕微鏡で確認します。
③ 腹腔鏡検査 カメラを使って腹膜を直接観察し、がんの広がりを調べます。
がん性腹膜炎の治療法
① 腹水の管理 腹水ドレナージ(穿刺排液)を行い、お腹に針を刺して腹水を抜き、症状を軽減します。また、アルブミン補充や利尿剤を使用して腹水の再貯留を防ぎます。
② 抗がん剤治療 腹腔内化学療法: 例:パクリタキセル(卵巣がん・胃がん)。腹腔内に抗がん剤を直接投与し、局所的にがん細胞を攻撃します。
全身化学療法: 例:シスプラチン、5-FU、ペムブロリズマブ。抗がん剤を血流に乗せ、全身のがん細胞に作用させます。
③ 光免疫療法 光感受性物質を用いた新しい治療法です。特定の光感受性物質を体内に投与し、がん細胞に選択的に集積させた後、特殊な波長の光を照射することで活性酸素を発生させ、がん細胞を破壊します。健康な細胞への影響が少なく、患者の負担が比較的少ない治療法として注目されています。
④ 緩和ケア がん性腹膜炎に伴う痛みや腸閉塞に対応するため、医療用麻薬(モルヒネ、フェンタニル)を使用します。必要に応じて、腸閉塞を和らげる処置や栄養管理を行います。

2. がん性髄膜炎とは?

がん性髄膜炎の概要
がん性髄膜炎とは、がん細胞が髄膜(脳や脊髄を覆う膜)に広がり、炎症を引き起こす状態を指します。がん細胞が髄膜に付着すると、脳脊髄液の流れが妨げられ、頭痛、視力障害、意識障害などの神経症状を引き起こします。
がん性髄膜炎の主な症状
① 頭痛・吐き気 髄膜の炎症による脳圧の上昇が原因で発生します。頭痛が強く、通常の鎮痛剤では効果が出にくいことがあります。また、脳圧の上昇によって吐き気や嘔吐を伴うことがあります。
② 視力障害 がん細胞が視神経を圧迫することで、視野がぼやけたり、二重に見えることがあります。進行すると、視力が著しく低下することもあります。
③ 手足のしびれ・麻痺 脊髄ががん細胞によって圧迫されることで、手足のしびれや感覚異常が現れることがあります。進行すると、運動機能が低下し、歩行困難や完全な麻痺に至る場合もあります。
④ 意識障害 がん性髄膜炎が進行すると、記憶障害や混乱が生じることがあります。さらに重症化すると、けいれん発作や昏睡状態に至ることもあります。
がん性髄膜炎の診断方法
① MRI検査 MRIを用いて髄膜の肥厚やがん細胞の沈着を確認します。特に造影MRIを行うことで、髄膜の異常をより詳細に評価することができます。
② 髄液細胞診(腰椎穿刺) 腰椎穿刺によって脳脊髄液を採取し、顕微鏡下でがん細胞の有無を確認します。数回にわたる検査が必要となることもあります。
がん性髄膜炎の治療法
① 髄腔内化学療法 髄膜内に直接抗がん剤を注入し、がん細胞を攻撃します。髄液の流れに沿って抗がん剤が分布し、がん細胞に直接作用します。代表的な抗がん剤にはメトトレキサートやシタラビンがあり、効果を高めるために定期的な投与が必要となる場合があります。
② 全身化学療法 脳脊髄液に到達する抗がん剤を全身投与し、髄膜に転移したがん細胞の活動を抑制します。代表的な抗がん剤にはカルボプラチンやペムブロリズマブがあり、他の治療法と併用することで効果が期待できます。
③ 放射線治療 脳や脊髄に放射線を照射し、がんの進行を抑えます。特に症状が進行している場合、局所的な放射線治療によってがん細胞の増殖を抑えることが目的となります。
④ 光免疫療法 光感受性物質を用いた新しい治療法です。特定の光感受性物質を体内に投与し、がん細胞に選択的に集積させた後、特殊な波長の光を照射することで活性酸素を発生させ、がん細胞を破壊します。副作用が比較的少ないため、他の治療法と併用されることがあります。

3. まとめ

がん性腹膜炎 がん性髄膜炎
腹膜播種が原因で発症 がん細胞の髄膜転移が原因で発症
診断にはCT・MRI・細胞診が重要
治療は抗がん剤、放射線治療、緩和ケアが中心
光免疫療法は、がん細胞を選択的に破壊する可能性がある治療法として研究が進められている。

がん性腹膜炎・がん性髄膜炎は進行がんの合併症ですが、適切な治療を行うことで症状を軽減し、生活の質を維持することが可能です。
主治医と相談しながら、最適な治療法を選択しましょう。

土日祝も毎日電話対応しております

関連記事

PAGE TOP