がんが進行すると、多くの患者様が、がん悪液質と呼ばれる状態に陥ることがあります。
これは単なる体重減少ではなく、筋肉量の減少、慢性的な炎症、食欲不振、全身の衰弱を伴う深刻な症候群です。
がん悪液質が進行すると、化学療法や放射線治療に耐えられなくなり、治療の継続が困難になることがあります。
本記事では、がん悪液質の原因と症状、治療に耐えられなくなった場合の対応策、QOL(生活の質)を維持するための方法について詳しく解説します。
1. がん悪液質とは
1-1. がん悪液質の定義 |
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がん悪液質(Cancer Cachexia)とは、がんの進行に伴う代謝異常により、筋肉と脂肪が著しく減少し、体重が大幅に減少する状態を指します。 これは単なる「痩せる」状態とは異なり、栄養補給を行っても改善が難しいのが特徴です。 |
【がん悪液質の3段階】 | |
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段階 | 特徴 |
前悪液質(Pre-cachexia) | 軽度の体重減少(5%未満)、食欲低下、代謝変化が始まる |
悪液質(Cachexia) | 体重が5%以上減少し、筋肉量の低下が顕著になる 栄養補給をしても体重を維持できない |
不可逆的悪液質(Refractory cachexia) | 末期段階であり、治療が困難となる |
1-2. がん悪液質の原因 |
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がん悪液質は、単に「食べられないから痩せる」のではなく、がん細胞が体の代謝を変化させることによって生じる病態です。 |
原因 | 説明 |
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炎症性サイトカインの異常増加 | がん細胞がIL-6、TNF-α、IL-1βなどの炎症性物質を放出し、筋肉や脂肪の分解を促進する |
異常なエネルギー消費 | 体が通常より多くのエネルギーを消費するため、摂取カロリーを増やしても追いつかない |
食欲不振と消化機能の低下 | 腫瘍の影響や治療の副作用により、食欲が低下し、栄養を十分に摂取できなくなる |
2. がん悪液質の症状
がん悪液質は、進行するにつれて以下のような症状が現れます。
症状 | 説明 |
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体重減少 | 特に筋肉量の低下が顕著 |
食欲不振 | 食べてもすぐに満腹感を感じる |
全身の倦怠感・疲労感 | 慢性的な疲労を感じ、日常生活が困難になる |
筋力低下 | 動くのが困難になり、立ち上がる・歩くなどの動作が辛くなる |
浮腫(むくみ)・脱水症状 | 栄養不良や代謝異常により体内の水分バランスが崩れる |
精神的な落ち込み・うつ状態 | 体力の低下や栄養不足が原因で気分の落ち込みや意欲の低下がみられる |
3. がん悪液質による治療継続困難の対応策
がん悪液質が進行し、治療に耐えられなくなった場合、次の対応策を考えることが重要です。
3-1. 栄養管理の見直し |
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がん悪液質では、従来の「栄養補給」だけでは体重を回復することが難しくなりますが、適切な栄養管理によって症状を軽減し、治療を継続できる可能性があります。 |
栄養管理の方法 | 内容 |
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高エネルギー・高たんぱく食 |
・エネルギー密度の高い食品を少量ずつ摂取する(バター、チーズ、ナッツ、アボカドなど) ・高たんぱく食品を意識的に摂る(卵、豆腐、肉、魚) ・プロテインや栄養補助食品(エンシュア・リキッドなど)を活用 |
消化しやすい食事 |
・柔らかい食事やスープ、ゼリーなどを活用 ・油分が多すぎるものは避け、胃に負担をかけない |
少量頻回食 |
・1回の食事量を減らし、1日に5~6回に分けて食べる ・食事の時間にとらわれず、食べられるときに食べる |
3-2. 医療的な栄養サポート |
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栄養管理が難しくなった場合、医療的な栄養補給を検討することも重要です。 |
栄養補給の方法 | 内容 |
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経腸栄養(胃ろう・経鼻栄養) | 消化管の機能が維持されている場合、流動食をチューブで補給する |
静脈栄養(TPN:中心静脈栄養) | 消化管の吸収が困難な場合、静脈から直接栄養を補給する |
これらの方法は、患者様の状態や希望を踏まえて慎重に判断する必要があります。 |
3-3. 緩和ケアの導入 |
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がん悪液質が進行し、積極的な治療が困難になった場合は、緩和ケアを積極的に取り入れることが重要です。 |
緩和ケアの目的 | 内容 |
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症状の緩和 | 痛みや呼吸苦のコントロール、倦怠感や食欲不振の改善 |
精神的ケア | 不安やうつ状態のサポート |
家族との時間を大切にする | QOL(生活の質)を最大限に維持するための支援 |
緩和ケアは、がん治療の終末期に限らず、早い段階から受けることが推奨されています。 |
3-4. 光免疫療法 |
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がん悪液質が進行し、従来の治療が難しくなった場合でも、一部の患者様にとって光免疫療法が選択肢となる可能性があります。 |
(1)光免疫療法の概要 |
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光免疫療法は、がん細胞に選択的に集積する薬剤を投与し、その後、特定の波長の光を照射することでがん細胞を攻撃する治療法です。 周囲の正常細胞への影響が少なく、副作用が比較的軽度である点が特徴です。 |
(2)がん悪液質の患者様における利点 | |
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利点 | 説明 |
全身状態が低下した患者様でも負担が少ない | 手術や化学療法と比べて身体への負担が少ないため、がん悪液質により体力が低下した患者様でも治療を受けられる可能性があります。 |
QOL(生活の質)を維持しながら治療が可能 | 副作用が軽減されることで、食事や日常生活の維持がしやすくなる場合があります。 |
他の治療法との併用も検討可能 | 緩和ケアを受けながら、がんの縮小を目指す選択肢として利用されることもあります。 |
(3)光免疫療法を受ける際の検討事項 |
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光免疫療法はすべてのがん悪液質の患者様に適応されるわけではなく、腫瘍の部位や進行度、全身状態を考慮して医師と相談することが重要です。 また、治療施設が限られているため、受けられる医療機関を事前に確認する必要があります。 |
4. これからの選択肢を考える
がん悪液質が進行し、治療継続が困難になった場合、「治療を続けるべきか、それとも生活の質を優先すべきか」を考える時期に入ります。
5. まとめ
項目 | 内容 |
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(1)がん悪液質とは |
・がんの進行に伴う筋肉量の減少、体重減少、倦怠感などを伴う状態 ・栄養補給をしても改善が難しい |
(2)対応策 |
・栄養管理の見直し(高エネルギー・高たんぱく食、少量頻回食) ・医療的な栄養サポート(経腸栄養・静脈栄養) ・緩和ケアの導入(症状の緩和、QOL向上) |
(3)これからの選択肢 |
・延命治療の継続か、生活の質を優先するかを慎重に検討する ・家族との時間を大切にし、自分らしい選択をする |
がん悪液質の進行により治療継続が難しくなった場合でも、適切な対応を取ることでQOL高めることが可能です。

【当該記事監修者】院長 小林賢次
がん治療をご検討されている、患者様またその近親者の方々へがん情報を掲載しております。ご参考頂けますと幸いです。