肝臓がんの生存率が低い複数の要因と光免疫療法の可能性
肝臓がん（主に肝細胞がんや胆管細胞がん）は、予後が厳しい悪性腫瘍の一つであり、全ステージを合わせた場合、5年生存率は約30～40%とされています。
特に進行した段階で診断されることが多く、「手遅れ」と宣告されるケースも少なくありません。
生存率の低さには、生物学的特性、診断の遅れ、治療の限界、患者様の基礎疾患など複数の要因が関与します。
一方で、近年注目されている光免疫療法は、進行肝臓がんに対する新たな治療選択肢として期待されており、従来の治療では困難だった症例にも希望をもたらす可能性があります。
当ページでは、肝臓がんの生存率を下げる要因を詳細に解説し、光免疫療法の可能性についても探ります。
発見の遅れと進行性の病態
肝臓がんは初期段階では無症状であることが多く、倦怠感、腹部不快感、食欲低下などの非特異的な症状が現れる頃には、がんが進行しているケースが一般的となります。
ステージⅢやⅣで診断される場合、腫瘍が肝臓外に浸潤したり、遠隔転移（肺、骨、リンパ節など）が発生したりしているため、根治的治療が難しくなります。
早期発見は生存率向上の鍵となりますが、肝臓がんは定期的なスクリーニング（超音波、CT、AFP検査など）を受けていない限り、見逃されやすい疾患です。
特に、肝硬変や慢性肝炎の患者様では、がんの発症リスクが高いにもかかわらず、症状の区別が難しいため、診断が遅れる傾向があります。
治療の複雑さと肝機能への影響
肝臓は代謝、解毒、血液凝固因子産生など生命維持に不可欠な機能を担うため、がん治療は肝機能を損なわないよう慎重に行う必要があります。
主な治療法には以下が挙げられますが、それぞれの治療法にも限界があります。
●外科的切除：早期がんに有効だが、進行がんでは腫瘍の大きさや転移により適応外となることが多い。肝臓の残存機能が不足する場合、手術自体がリスクとなる。
●ラジオ波焼灼療法（RFA）やマイクロ波凝固療法：局所治療として有効だが、腫瘍が複数または大きい場合、効果が限定される。
●動脈塞栓療法（TACE）：肝動脈を塞栓し、がんへの血流を遮断するが、正常肝細胞へのダメージや再発リスクが課題。
●化学療法・分子標的薬：ソラフェニブやレンバチニブなどの薬剤が使用されるが、がん細胞の薬剤耐性や副作用（倦怠感、肝機能障害）により長期的な効果が限定的。
●放射線療法：肝臓の放射線感受性が高く、正常組織へのダメージが問題となるため、限定的にしか使用されない。
これらの治療は、肝臓の機能低下や患者様の全身状態（PS）により適応が制限され、生存率の向上に十分な効果を発揮できない場合があります。
再発と転移の高いリスク
肝臓がんは、治療後に再発するリスクが非常に高く、5年以内の再発率は70%以上と報告されています。
特に、肝細胞がんは肝内での多発性再発や、門脈・肝静脈を介した転移が頻繁に見られます。
転移先には肺、骨、リンパ節、腹膜などが一般的で、これらが生存期間を短縮する要因となります。
がん細胞の完全な除去が難しい背景には、肝臓の微小環境や画像診断で見逃される微小病変の存在が挙げられます。
再発や転移は、治療戦略を複雑化し、患者様の予後を悪化させます。
肝臓の生物学的特性とがんの増殖
肝臓は再生能力が高い臓器ですが、この特性ががん細胞の増殖を助けることがあります。
肝臓は二重の血供給（肝動脈と門脈）を持ち、豊富な血流ががん細胞の成長や転移を促進します。
また、肝臓の微小環境は免疫抑制的な特性を持ち、がん細胞が免疫系から逃避しやすい状況を作り出します。
このような生物学的特徴は、治療の効果を低下させ、生存率に悪影響を及ぼします。
さらに、肝細胞がんは血管新生を促進する因子を過剰に産生し、腫瘍の急速な増殖を支えます。
関連疾患の影響と肝機能の低下
肝臓がん患者様の多くは、肝硬変やB型・C型肝炎などの基礎疾患を有しています。
これらは以下のように生存率に影響を及ぼします。
●肝硬変：肝臓の線維化により機能が低下し、手術や化学療法の適応が制限される。Child-Pugh分類でBやCの患者様では、治療のリスクが高まる。
●慢性肝炎：ウイルス性肝炎はがんの発生リスクを高め、治療後の再発率も上昇させる。
●非アルコール性脂肪肝疾患（NAFLD）：肥満や糖尿病に関連し、肝臓がんのリスク因子として近年注目されている。
これらの疾患は、肝臓の予備能を低下させ、治療の副作用耐性を弱めるため、生存率の低下に直結します。
生活習慣と環境因子の影響
肝臓がんのリスク因子である生活習慣や環境因子は、発症だけでなく生存率にも影響します。
●過度なアルコール摂取：肝硬変やがんの進行を加速し、治療効果を低下させる。
●肥満・糖尿病：インスリン抵抗性や脂肪肝ががんの増殖を促進し、予後を悪化させる。
●喫煙：がんの悪性度を高め、治療への反応性を下げる。
●アフラトキシン：一部地域でのカビ毒暴露が、がんのリスクを高める。
これらの因子は、治療後の生活習慣改善が不十分な場合、再発リスクを高め、生存期間を短縮します。
診断技術の進歩と限界
近年、画像診断（超音波、造影CT、MRI）や腫瘍マーカー（AFP、PIVKA-II）の進歩により、肝臓がんの早期発見率は向上しています。
しかし、以下のような技術の限界が生存率に影響します。
●微小腫瘍の検出困難：1cm以下の腫瘍や肝硬変背景での結節は見逃されやすい。
●偽陽性・偽陰性：肝硬変や炎症が診断を複雑化し、適切なタイミングでの治療開始を遅らせる。
●スクリーニングの普及不足：高リスク群（肝硬変や慢性肝炎患者）への定期検査の普及が不十分。
これらの課題により、進行がんとして診断されるケースが多く、予後が悪化します。
個々の患者の状態と予後
生存率は、患者様の年齢、全身状態、肝機能、がんの種類（肝細胞がん、胆管細胞がん）、進行度（TNMステージ）、腫瘍の悪性度などによって大きく異なります。
高齢者や併存疾患（心疾患、腎不全など）を有する患者様では、積極的治療の適応が限られ、生存期間が短くなる傾向があります。
また、がんの分子プロファイル（例：遺伝子変異）も治療反応性や予後に影響します。
個別化医療の進展により、患者様ごとの最適な治療計画が求められています。
光免疫療法：進行肝臓がんへの新たな希望
光免疫療法は、進行した肝臓がんや従来治療に抵抗性の症例に対し、新たな治療選択肢として注目されています。
この治療は、光感受性薬剤と近赤外光を組み合わせ、がん細胞を選択的に破壊する低侵襲なアプローチです。
特に、「手遅れ」とされるステージⅣの患者様において、症状緩和と生存期間延長の可能性を提供します。
光免疫療法の利点と緩和ケアとの融合
光免疫療法は、進行肝臓がん患者様にとって以下のような利点があります。
●選択性：がん細胞をピンポイントで攻撃し、正常肝細胞への影響を抑える。これにより、肝機能低下のリスクが低い。
●低侵襲性：内視鏡や経皮的アプローチで施行可能であり、全身麻酔や大規模手術が不要。
●症状緩和：腫瘍縮小により、腹部膨満感、疼痛、黄疸などの症状が軽減。QOL向上が期待される。
●免疫効果：全身的な抗がん免疫を誘導し、転移巣の制御に寄与する可能性。
●併用可能性：分子標的薬（ソラフェニブなど）や免疫チェックポイント阻害剤との併用で相乗効果を期待。
緩和ケアとの融合により、患者様は積極的な治療を受けつつ、生活の質を維持できます。
家族との時間や日常活動の継続を支援し、終末期においても希望を提供します。
総合的な医療体制の重要性
肝臓がんの生存率向上には、早期発見、適切な治療、継続的フォローアップが不可欠となります。
光免疫療法の導入により、進行がん患者様の治療選択肢が広がる一方、以下のような総合的アプローチが求められます。
●多職種連携：腫瘍内科医、肝臓専門医、放射線科医、緩和ケアチームが協力。
●個別化医療：ゲノム解析や腫瘍マーカーに基づくテーラーメイド治療。
●患者教育：生活習慣改善（禁酒、減量）や定期検査の重要性を啓発。
結論
肝臓がんの生存率が低い理由は、診断の遅れ、治療の複雑さ、再発・転移リスク、肝臓の生物学的特性、関連疾患、生活習慣など多岐にわたる要因が絡み合っています。
これらに対抗するためには、早期発見と個別化された治療戦略が不可欠となります。
光免疫療法は、進行肝臓がんに対する革新的なアプローチとして、がん細胞の選択的破壊と症状緩和を同時に実現し、従来治療の限界を補う可能性があります。
医療提供者、研究者、患者様が連携し、総合的な治療体制を構築することで、生存率向上とQOL改善が期待されます。
以下より当院の光免疫療法の詳細をご確認頂けます。
【当該記事監修者】院長 小林賢次
がん治療をご検討されている、患者様またその近親者の方々へがん情報を掲載しております。ご参考頂けますと幸いです。
