1. 甲状腺がんとは
甲状腺がんは、首の前側にある甲状腺に発生する悪性腫瘍です。
比較的進行が緩やかながんとして知られていますが、中には進行が速いタイプも存在します。
代表的なものには乳頭がん、濾胞がん、髄様がん、未分化がんなどがあり、それぞれ性質や治療方針が異なります。
一般的に乳頭がんや濾胞がんは予後が良好とされますが、進行がんの場合には対応が難しくなることがあります。
2. ステージ4とは
甲状腺がんのステージ4とは、がんが甲状腺の外に広がり、周囲の臓器や遠隔臓器に転移している状態を指します。
肺や骨への転移がよく見られますが、まれに腹膜（お腹の内側を覆う膜）にまでがん細胞が播種（散らばること）することもあります。
このような状態を「腹膜播種」と呼びます。
3. 腹膜播種とは
腹膜播種とは、がん細胞が腹腔内に散らばり、腹膜に無数の小さな腫瘍を形成する状態です。
腹水（お腹に液体がたまる症状）を伴うことが多く、腹部の膨満感や食欲不振、体重減少、便通異常などが起こります。
腹膜播種は消化器系のがんに多い合併症ですが、進行した甲状腺がんでもごくまれにみられることがあります。
腹膜播種がある場合、がん細胞が広範囲に散らばっているため、外科的手術による完全切除は極めて困難です。
また、通常の化学療法（抗がん剤治療）も効果が限定的なことが多く、治療の選択肢が限られる現実があります。
4. 甲状腺がん（ステージ4）腹膜播種の治療の現状
ステージ4の甲状腺がん、特に腹膜播種を伴う場合、標準的な治療法には以下のようなものがあります。
| 治療法 | 説明 |
|---|---|
| 放射線治療 | 局所コントロールを目的に行われることがありますが、腹膜全体への効果は限定的です。 |
| 抗がん剤治療 | ドキソルビシンなどの抗がん剤が使われることがありますが、甲状腺がんは抗がん剤への反応が比較的鈍い特徴があります。 |
| 分子標的治療薬 | レボチロキシンなどのホルモン療法に加え、特定の分子を狙った薬剤（例：レンバチニブ）が用いられることもあります。ただし副作用管理が重要です。 |
腹膜播種が進行している場合、これらの治療でもコントロールが難しく、治療のゴールは完治ではなく、症状の緩和や生活の質（QOL）の向上を目指すことになる可能性があります。
5. 標準治療が難しい場合の選択肢
腹膜播種を伴うステージ4の甲状腺がんは、がん細胞が広範囲に拡がっているため、標準治療が奏功しないケースも多くなります。
このような場合、患者様と医師が相談しながら治療方針を慎重に検討していくことが重要です。
治療の目標は、腫瘍の進行をできるだけ遅らせ、痛みや不快な症状を軽減し、日常生活の維持を図ることにあります。
一般的な治療だけでなく、患者様ご本人の希望や体力、生活背景に応じて、緩和ケアの導入も考慮されることが少なくありません。
6. 光免疫療法という選択肢
治療方法がないとされる方の選択肢の一つに、「光免疫療法」があります。
これは、がん細胞に集積する特殊な薬剤に近赤外線レーザーを照射し、がん細胞をピンポイントで破壊する治療法です。
薬剤が全身に広がらず、標的とする腫瘍に局所的に作用するのが特徴です。
甲状腺がん（ステージ4）で腹膜播種を伴う場合、全身状態が安定しないことや、標準治療が困難になることがありますが、このようなケースでも光免疫療法の適応が検討されることがあります。
また、広範囲に病変が及ぶため、全身治療の負担が大きい場合にも局所治療として選択肢となり得ます。
ただし、適応や効果はがんの性質や病変の位置によって異なるため、医師による慎重な判断が必要です。
当院では、甲状腺がんを含め、他院で治療が難しいとされた患者様にも光免疫療法のご案内を行っています。
詳しくは、以下のリンクをご参照ください。
7. まとめ
甲状腺がん（ステージ4）腹膜播種は、非常に進行した状態であり、標準治療だけでは十分な効果が得られない場合も少なくありません。
症状の緩和や生活の質の維持を目指す治療方針が重視され、患者様それぞれに合ったアプローチが必要です。
また、標準治療が難しい場合には、光免疫療法のような選択肢を視野に入れることも可能です。
治療の進め方については、主治医としっかり相談しながら、ご自身にとって最良の選択を見つけることが大切です。
【当該記事監修者】院長 小林賢次
がん治療をご検討されている、患者様またその近親者の方々へがん情報を掲載しております。ご参考頂けますと幸いです。
