がん治療において、骨髄抑制は大きな問題の一つです。
特に、化学療法(抗がん剤治療)や放射線治療を受けている患者において、骨髄の機能が大きく低下すると、白血球、赤血球、血小板が減少し、感染症や貧血、出血のリスクが高まります。
骨髄抑制が重度になると、治療の継続が難しくなることもあり、治療方針の見直しが必要になります。
本記事では、骨髄抑制の原因、症状、治療継続が困難になった場合の対応策について詳しく解説します。
1. 骨髄抑制とは
1-1. 骨髄抑制の定義
骨髄は、血液細胞(白血球・赤血球・血小板)を作る重要な組織であり、主に大腿骨や骨盤、脊椎などの骨の内部に存在します。
がん治療(特に化学療法や放射線治療)によって骨髄の機能が低下すると、血液細胞の産生が抑制されることを「骨髄抑制」と呼びます。
骨髄抑制が進行すると、以下のような状態が発生します。
血球の種類 | 減少時の名称 | 影響・症状 |
---|---|---|
白血球 | 好中球減少症 | 感染症のリスク増加 |
赤血球 | 貧血 | 倦怠感や息切れ、動悸 |
血小板 | 血小板減少症 | 出血しやすくなる |
特に、白血球(好中球)の減少は感染症のリスクを大幅に高め、重篤な敗血症を引き起こす可能性があるため、治療中断の大きな要因となります。
1-2. 骨髄抑制の原因
骨髄抑制は主に以下の要因によって引き起こされます。
原因 | 影響・説明 |
---|---|
(1)化学療法 |
多くの抗がん剤(特にアルキル化剤、プラチナ製剤、アントラサイクリン系薬剤など)が骨髄の造血細胞に影響を与える。 化学療法を繰り返すことで骨髄の回復力が低下し、累積的に抑制が強くなる。 |
(2)放射線治療 | 骨髄が豊富な部位(骨盤や脊椎など)に放射線が照射されると、造血機能が低下しやすい。 |
(3)がんそのものの影響 |
白血病や骨髄異形成症候群(MDS)などの血液がんは、直接的に骨髄機能を障害する。 がんが骨髄に転移すると、造血細胞の働きが阻害される。 |
(4)その他の要因 |
高齢者や体力が低下している患者では、骨髄の回復力が弱く、骨髄抑制がより深刻になりやすい。 栄養不良(特にビタミンB12や葉酸不足)があると、血液細胞の回復が遅れる。 |
2. 骨髄抑制の症状
骨髄抑制の程度に応じて、さまざまな症状が現れます。
種類 | 症状・影響 |
---|---|
2-1. 白血球減少(好中球減少症) |
・発熱(38℃以上) ・感染症(肺炎、尿路感染症、敗血症) ・口内炎、喉の痛み ・下痢(腸管粘膜の感染) 特に、白血球(好中球)が500/μL未満になると「発熱性好中球減少症(FN)」と呼ばれ、速やかな抗菌薬治療が必要です。 |
2-2. 赤血球減少(貧血) |
・倦怠感、疲れやすさ ・息切れ ・動悸 ・めまい、頭痛 貧血が進行すると、日常生活にも影響を及ぼし、化学療法の継続が困難になります。 |
2-3. 血小板減少(血小板減少症) |
・皮膚や粘膜の出血(紫斑・鼻血・歯茎からの出血) ・消化管出血(黒色便・血便) ・月経過多 ・脳出血(重度の場合、意識障害や片麻痺) 血小板が20,000/μL未満になると出血リスクが非常に高くなり、治療の継続が難しくなります。 |
3. 治療が継続できない場合の対応策
骨髄抑制が強く、治療の継続が困難になった場合は、以下の対策が考えられます。
治療法 | 内容・説明 |
---|---|
3-1. 造血因子製剤(G-CSF)の使用 |
・白血球減少が著しい場合、G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)を投与し、白血球の回復を促す。 ・代表的な薬剤:フィルグラスチム(グラン)、ペグフィルグラスチム(ジーラスタ)。 ・化学療法の前後で使用し、白血球減少の期間を短縮する。 |
3-2. 輸血療法 |
・赤血球や血小板の減少が重度の場合、輸血が必要。 ・貧血がひどい場合 → 赤血球輸血。 ・血小板が著しく低下 → 血小板輸血。 |
3-3. 化学療法の強度調整 |
・抗がん剤の投与量を減らす(用量調整)。 ・治療スケジュールの延長(休薬期間を長くする)。 |
3-4. 治療方針の変更 |
・分子標的治療や免疫療法など、骨髄抑制の少ない治療に変更。 ・緩和ケアに切り替え、QOL(生活の質)を重視。 |
3-5. 光免疫療法 |
・光免疫療法は、がん細胞のみに選択的に作用する治療法であり、骨髄抑制のリスクを低減できる可能性がある。 ・体への負担が少なく治療を継続できる点が特徴。 ・他の治療と併用することで、患者のQOLを維持しながら治療の選択肢を広げることができる。 |
4. 生活上の注意点
予防策 | 内容・説明 |
---|---|
4-1. 感染予防 |
骨髄抑制による白血球減少で免疫力が低下し、感染症のリスクが高まるため、日常生活での予防が重要。
・手洗い・うがいの徹底:外出後や食事前にこまめに行い、感染リスクを下げる。 |
4-2. 貧血・出血の予防 |
赤血球や血小板の減少により、貧血による倦怠感や息切れ、出血リスクが高まるため、日常生活での注意が必要。
・鉄分・ビタミンB12を意識した食事: |
5. まとめ
項目 | 内容・説明 |
---|---|
(1)骨髄抑制とは |
・白血球・赤血球・血小板の産生が低下する病態。 ・主な原因はがん治療(化学療法・放射線治療)。 ・影響: - 白血球減少 → 感染症リスク増加。 - 赤血球減少 → 貧血。 - 血小板減少 → 出血しやすくなる。 |
(2)治療が継続できない場合の対応策 |
・G-CSF製剤の投与(白血球の回復促進)。 ・輸血療法(赤血球・血小板の補充)。 ・抗がん剤の用量調整やスケジュール変更。 ・治療方法の変更(分子標的治療・免疫療法・緩和ケアへの切り替え)。 |
(3)日常生活の注意点 |
・感染予防:手洗い・うがい・人混み回避。 ・貧血や出血のリスク管理:栄養管理・転倒防止。 |
骨髄抑制が強く、治療が継続できない場合には、造血因子製剤の使用、輸血、化学療法の調整などの対応策があります。重症化すると治療の継続が難しくなるため、早期の対策が重要です。医師と相談しながら、最適な治療を選択することが大切です。

【当該記事監修者】院長 小林賢次
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