がんにおける緩和ケアについて知ろう
緩和ケアの理念
緩和ケアとは何かについて説明する前に、実際に緩和ケアを提唱したシシリー・ソンダースが緩和ケアをどのように説明しているかについて紹介します。
緩和ケアの理念を築き上げた近代ホスピスの母として知られているシシリー・ソンダースは、緩和ケアについて以下のように述べています。
“You matter because you are you, and you matter to the end of your life. We will do all we can not only to help you die peacefully, but also to live until you die.”
(Dame Cicely Saunders: A Palliative Care Pioneerより引用)
シシリー・ソンダースのこの言葉を和訳してみると
「あなたがあなたのままであることが重要であり、あなたの人生の最後の時まで重要です。
私たちはあなたが平穏に最期を迎えられることを手伝うだけでなく、あなたが最期の日を迎えるまで生きられるようにできることは全て行います。」
となります。
この考え方は、今日のがん医療分野において最も重要な考え方になっています。
緩和ケアとは
それでは、緩和ケアとは具体的にどういった医療ケアなのでしょうか。
緩和ケアについては、2002年にWHO(世界保健機構)によって、以下のように定義されています。
WHO Definition of Palliative Care(2002)
Palliative care is an approach that improves the quality of life of patients and their families facing the problem associated with life-threatening illness, through the prevention and relief of suffering by means of early identification and impeccable assessment and treatment of pain and other problems, physical, psychosocial and spiritual.
Palliative care
Provides relief from pain and other distressing symptoms;
Affirms life and regards dying as a normal process;
Intends neither to hasten or postpone death;
Integrates the psychological and spiritual aspects of patient care;
Offers a support system to help patients live as actively as possible until death;
Offers a support system to help the family cope during the patient’s illness and in their own
bereavement;
Uses a team approach to address the needs of patients and their families, including
bereavement counseling, if indicated;
Will enhance quality of life and may also positively influence the course of illness;
Is applicable early in the course of illness, in conjunction with other therapies that are intended to prolong life, such as chemotherapy or radiation therapy, and includes those investigations needed to better understand and manage distressing clinical complications.
上記の日本語訳については以下の通りです。
緩和ケアの定義(WHO 2002年)
緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOLを、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで、苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである。
緩和ケアは
痛みやその他のつらい症状を和らげる
生命を肯定し、死にゆくことを自然な過程と捉える
死を早めようとしたり遅らせようとしたりするものではない
心理的およびスピリチュアルなケアを含む
患者が最期までできる限り能動的に生きられるように支援する体制を提供する
患者の病の間も死別後も、家族が対処していけるように支援する体制を提供する
患者と家族のニーズに応えるためにチームアプローチを活用し、必要に応じて死別後のカウンセリングも行う
QOLを高める。
さらに、病の経過にも良い影響を及ぼす可能性がある
病の早い時期から化学療法や放射線療法などの生存期間の延長を意図して行われる治療と組み合わせて適応でき、つらい合併症をよりよく理解し対処するための精査も含む
【参考】「WHO(世界保健機関)による緩和ケアの定義(2002年)」定訳作成について
上記の内容を要約すると、
緩和ケアとは、何かしらの病気に罹患した際に、患者様の身体的または精神的な苦痛を和らげるための医療ケアであるといえます。
それでは、がんにおいて緩和ケアはどのようなものなのかについて次項で追っていきたいと思います。
がんにおける緩和ケアとは
緩和ケアというとがんの終末期に行われるケアであると思われている方は少なくないかと思われます。
しかし実際には終末期だけではなく早期からがん治療と並行し、必要に応じて行われる医療ケアとなっています。
緩和ケアは、がん患者様の肉体的・精神的苦痛を取り除き、患者さんとご家族にとって、自分らしい生活を過ごせるようにするために行われる医療ケアです。
また緩和ケアは、専門病棟で行われるイメージがあると思いますが、実際には専門病棟以外にも一般病棟や在宅ケアとしても緩和ケアを受けて頂くことが可能です。
一般的にがん医療に携わる全ての医療従事者によって提供される医療ケアを「基本的緩和ケア」と言い、特別なトレーニングを受けた専門家によって提供される医療ケアを「専門的緩和ケア」と言います。
近代より前のがん医療分野においては、がん治療そのものが重要視されていましたが、シシリー・ソンダースが普及した医療ケアのもとに療養過程も注目されるようになりました。
つまり患者様の辛さに寄り添い、患者様の尊厳(自分らしさ)を大切にすることも治療として重要であると考えられたのです。
因みに、この辛さというのは、単純な痛みではなく、全人的苦痛(トータルペイン)と呼ばれる4つの苦痛(身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルペイン)を示しております。
トータル・ペインは、シシリー・ソンダースによって提唱されており、終末期の患者との交流から患者が感じている痛みについて形式化したものです。
緩和ケアは、患者様が抱えるトータル・ペインに対して、全人的なケアを行い、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上を目指すケアと言い換えられるでしょう。
緩和ケアとターミナルケアの違いは?
がん治療を受けている際に、緩和ケア以外にターミナルケアという医療ケアを耳にしたことがある方もいらっしゃると思います。
しかし実際に緩和ケアとターミナルケアの違いについて聞かれると疑問を抱く方もいらっしゃるでしょう。
そこで、緩和ケアとターミナルケアの違いについてみていきたいと思います。
緩和ケアとターミナルケアの違いは、簡単にいってしまうと「生き方」に焦点を当てるか、「最期」に焦点を当てるかの違いです。
緩和ケアは上述を踏まえても、患者様の「生き方」を重視した医療ケアであるといえますが、ターミナルケアは安らかな最期を過ごしたいといったような「最期」を重視している傾向があるといえます。
また、緩和ケアはがんの進行度によらず行われる医療ケアであるのに対して、ターミナルケアは言葉の通り、末期がん患者や終末期に行われる医療ケアです。
細かい分類は難しいですが、近年はまとめて緩和ケア医療として執り行われています。
ターミナルケアは緩和ケアの一部として捉えて頂いてもよいでしょう。
緩和ケアの重要性
日本でも「病は気から」という諺があるように、精神的負担が大きければ、患者様やそのご家族も大変苦しい想いをしてしまいます。
緩和ケアを受けることによって、QOLが高まり、実際にがんを克服した方もいらっしゃいます。
がんは延命出来ることは勿論、治せる病気です。
余計な苦しみに囚われず、前向きに治療を受け、心身の健康状態を良い状態で維持するためにも緩和ケアはとても大切です。
癌の緩和ケアお問合せはこちら
【当該記事監修者】院長 小林賢次
がん治療をご検討されている、患者様またその近親者の方々へがん情報を掲載しております。ご参考頂けますと幸いです。