膀胱がんステージⅣについて
日本では、膀胱がんは比較的頻度の高いがんであり、特に高齢者での発症が多く見られます。
膀胱がんは、進行性の場合は治療が難しく深刻な疾患の一つです。
2021年の国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(※1)によると、年間約2万4千人が新たに膀胱がんと診断されています。
膀胱がんは、主に尿路上皮がん(移行上皮がん)が大半を占め、その他に扁平上皮がんや腺がんなどがあります。
特に尿路上皮がんは転移リスクが高いことで知られています。
膀胱がんステージⅣは、がんが膀胱壁を超えて骨盤内の隣接臓器(前立腺、子宮、直腸など)やリンパ節、肺、肝臓、骨などの遠隔部位に転移した進行性の状態を指します。
この段階では、症状が顕著になり、治療はがんの進行抑制、症状の緩和、QOL(生活の質)の向上を目指すことが中心となります。
膀胱がんの原因やリスク要因には、喫煙、化学物質への曝露、慢性膀胱炎などが関与しており、これらが複雑に絡み合って発症に至ります。
以下に、膀胱がんステージⅣの特徴と、標準治療以外の治療選択肢として光免疫療法を主軸に詳しく解説します。
(※1: 国立がん研究センター「膀胱がん統計」)
ステージⅣ膀胱がんの特徴と原因
ステージⅣの膀胱がんは、TNM分類でT4(膀胱外への浸潤)またはN1-3(リンパ節転移)、M1(遠隔転移)に分類されます。
肺転移、肝転移、骨転移が多く、血尿、排尿困難、骨盤部や腰の痛み、倦怠感、体重減少、浮腫などの症状が現れることがあります。
原因としては、以下の要素が挙げられます。
●生活習慣と環境要因:喫煙は膀胱がんの最大のリスク要因で、発がん性物質(芳香族アミンなど)が尿中に排泄され、膀胱粘膜に影響を与えます。化学物質(染料、ゴム、塗料産業でのベンジジンやナフチルアミン)への曝露も主要なリスク要因です。長期の喫煙歴や職業性曝露がある方に発症が多い傾向があります。
●遺伝的要素:FGFR3、TP53、RB1などの遺伝子変異が尿路上皮がんに関与します。家族性膀胱がんは稀ですが、リンチ症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸がん)に関連するリスクも報告されています。
●その他:慢性膀胱炎、膀胱結石、長期カテーテル使用、シクロホスファミドなどの化学療法薬、放射線曝露もリスク要因です。住血吸虫感染(特に扁平上皮がん)は一部地域で関連があります。
膀胱がんの標準治療について
ステージⅣの膀胱がんに対する標準治療は、がんの進行を抑え、症状を緩和し、QOLを維持することを目的としています。
主な標準治療は以下の通りです。
●全身化学療法
・シスプラチン+ゲムシタビン:尿路上皮がんの標準化学療法で、進行性膀胱がんに広く使用される。腎機能障害や神経毒性が主な副作用。
・MVAC(メトトレキサート、ビンブラスチン、ドキソルビシン、シスプラチン):効果が高いが毒性が強く、適応は慎重に判断される。
・カルボプラチン+ゲムシタビン:シスプラチン不耐容の患者に使用される。
●免疫チェックポイント阻害剤
・ペムブロリズマブ:PD-L1発現陽性の膀胱がんに有効。化学療法後の進行性疾患に使用される。
・アテゾリズマブ:PD-L1阻害剤で、シスプラチン不適応患者に適応。免疫関連副作用(皮膚炎、肺炎、肝炎など)に注意が必要。
・ニボルマブ:化学療法抵抗性の膀胱がんに使用される。
●分子標的薬
・エルダフィチニブ:FGFR変異陽性の尿路上皮がんに有効。高リン酸血症や皮膚症状が副作用。
・エンザルタミド:一部の進行性膀胱がんに対する臨床試験が進行中。
●放射線療法:骨転移や局所症状(血尿、疼痛)の緩和に使用。膀胱温存療法の一環として化学療法と併用される場合もある。
●外科療法:ステージⅣでは根治的膀胱全摘術は稀だが、転移巣の切除や尿路変更術(尿管ストーマや回腸導管)が症状緩和のために行われることがある。
●緩和ケア:血尿、疼痛、尿路閉塞への対応が重要。尿路ステントや疼痛管理によりQOL向上が期待される。
標準治療以外の治療選択肢:光免疫療法
標準治療は副作用が強く、進行性の膀胱がんでは効果が限定的な場合があります。
そこで、標準治療以外の選択肢として注目されるのが光免疫療法です。
光免疫療法とは
光免疫療法は、がん細胞に特異的に結合する抗体に光感受性物質を結合させた薬剤を投与し、特定の波長の光を照射することでがん細胞を選択的に破壊する革新的な治療法です。
この治療法には、正常細胞へのダメージを最小限に抑えつつ、がん細胞を効果的に攻撃するという特徴があります。
特にステージⅣの膀胱がんでは、膀胱内のがんや浅い転移巣、局所進行がんに対して適用可能な場合があります。
光免疫療法の仕組み
1.標的薬剤の投与:膀胱がん細胞表面の特定の抗原(例:EGFR、HER2)に結合する抗体-光感受性物質複合体を静脈内投与または膀胱内注入。
2.光照射:近赤外光を膀胱内に内視鏡やカテーテルを用いて照射し、薬剤が結合したがん細胞を活性化。光により活性酸素が発生し、がん細胞を破壊。
3.免疫活性化:破壊されたがん細胞が免疫系を刺激し、全身的な抗腫瘍免疫応答を誘発する可能性。
光免疫療法の利点
●高い選択性:正常な膀胱粘膜への影響が少なく、副作用が軽減される。
●適応範囲:膀胱内の腫瘍や局所進行がんに特に有効で、内視鏡を用いた治療が可能。
●QOLの向上:従来の化学療法や放射線療法に比べ、身体的負担が少ない。
●免疫効果:免疫系を活性化し、遠隔転移に対する追加効果が期待される。
当院の光免疫療法に関する詳細な情報は、以下よりご確認いただけます。
その他の標準治療以外の選択肢
光免疫療法以外にも、ステージⅣ膀胱がんに対して以下の治療が検討される場合があります。
これらは膀胱がん特有の分子特性や進行状況に基づいて選択されます。
●免疫チェックポイント阻害剤:ペムブロリズマブやアテゾリズマブ単剤療法は、マイクロサテライト不安定性(MSI-H)や高腫瘍変異負荷(TMB-H)の患者に有効。尿路上皮がんではTMB-Hが比較的多く、効果が期待される。
●遺伝子療法:FGFR変異を標的としたCAR-T細胞療法や、オンコリティックウイルス療法が臨床試験中。
●BCG療法の改良型:進行性膀胱がんでは限定的だが、免疫刺激を目的としたBCG併用療法が一部で研究されている。
●臨床試験:新たな分子標的薬(例:PI3K阻害剤)、がんワクチン、バイスペシフィック抗体などが臨床試験で有望視されている。ステージⅣの患者様にとって、臨床試験は最新治療へのアクセスを提供する重要な選択肢となる。
まとめ
膀胱がんステージⅣは、転移を伴う進行性の疾患であり、喫煙、化学物質への曝露、慢性膀胱炎がその発症に関与します。
標準治療(化学療法、免疫チェックポイント阻害剤、分子標的薬、放射線療法、緩和ケア)に加え、光免疫療法は選択性の高さと副作用の少なさから、QOLを重視する患者様にとって有望な選択肢といえます。
特に膀胱がん特異的抗原を標的とした光免疫療法は、ステージⅣの膀胱がんに対する新たな治療の可能性を秘めています。
そして、光免疫療法は標準治療と併用することで相乗効果も期待できる治療法でもあります。
膀胱がんは早期発見と適切な治療選択が重要なため、当院の光免疫療法を適用可能かどうかはお気軽にご相談ください。

【当該記事監修者】院長 小林賢次
がん治療をご検討されている、患者様またその近親者の方々へがん情報を掲載しております。ご参考頂けますと幸いです。