全人的苦痛|光免疫療法導入院[東京がんクリニック]

痛みって何だろう?

今回の記事のタイトルにもなっている『全人的苦痛(トータルペイン)』。
この概念を理解して頂くためには、『痛み』について知って頂く必要があります。
最初に、『痛み』について一緒にみていきましょう。

まず皆様は、『痛い』という単語を聞いて、どのような痛みを思い浮かべるでしょう。
火傷や切り傷といった外傷もあれば、頭痛や腹痛といった症状、更にPTSDなどの精神的な痛みといったようにいろいろな痛みがあります。
外傷や風邪の症状からくる痛みは、自身の体験から何となくイメージできると思います。
では、精神的な痛みはどうでしょう。
例えば、失恋の痛みについて、想像してみて下さい。
新たな恋に向けて、前を進める人もいれば、なかなか立ち直れない人もいます。
では、この差はどうして生じたのか想像してみて下さい。

例えば、前者は「テンションは下がるけれど別にめちゃくちゃ好きではなかった」のに対して、後者は「結婚を考えるほど心底愛していた」ということ、つまり相手への本気の度合いの差は勿論考えられると思います。次に、ストレスの耐性についても考えられ、仮に愛情の度合いが同じでも受けるダメージが異なるということも考えられます。また、恋愛によってトラウマが発生したことで、心の痛みが深刻化したということも考えられます。
このように、一言で『痛み』といってもこの言葉には多面的、多層的な意味が含まれており、定義することが非常に難しいのです。
言ってしまえば、『痛み』の種類は、人の数だけ存在し、その『痛み』は、一人一人の心の要素や状況等といった多変数で考えなければなりません。

生きている間に、誰しも様々な痛みを経験してきたと思いますが、改めて「痛みって何?」と聞かれるとなかなか難しいですよね。

それでは、ここで少し痛みについて、詳しくみていきましょう。

痛みについての専門的な機関

痛みについての専門的な機関として、国際疼痛学会(International Association for the Study of Pain:IASP)があります。
IASPが提唱している痛みの定義は以下の通りです。

痛みの定義・改訂版(2020 年:IASP 公式日本語訳)

「組織損傷が実際に起こった時あるいは起こりそうな時に付随する不快な感覚および情動体験、あるいはそれに似た不快な感覚および情動体験」

Pain: An aversive sensory and emotional experience typically caused by, or resembling that caused by, actual or potential tissue injury.

2020年7月16日、国際疼痛学会(International Association for the Study of Pain: IASP)は1979年来、41年ぶりに『痛みの定義』が改訂されました。IASPも痛みという概念の複雑さや他人が有する痛みへの理解の難しさ、自身の痛みに対する言語化の難しさといったことを考慮した上で、厳正な精査の下、定義を改訂したと考えられます。
今日の医療現場は、QOLの向上のように『患者様を第一に考える』という理念をモットーとして機能しており、分かっている病気を治すという単純な取り組みだけでは無くなってきています。
また『痛み』は、私たちの身体に何らかの異常や異変が生じていることを伝えてくれる危険信号だという見方をすれば、絶対悪と言い切れない難しさもあり、『痛み』を緩和していくために、『痛み』に真摯に向き合う必要があります。

まとめると、『痛み』は誰しもが経験することで、その程度や辛さを表すことは複雑なものだということです。さて、『痛み』についての理解を深めて頂いたところで、本題に入っていきたいと思います。

全人的苦痛(トータルペイン)について

上記では、様々な痛みについて言及してきましたが、がんについても同じことが言えます。
がんでは、その症状は勿論、薬の副作用やそこから生じる精神的な苦痛といったように『痛み』が付き纏い、緩和ケアにおける相関が最も高い要素の一つといえます。
全人的苦痛は、簡単に言ってしまえば、最適な緩和ケアを行うために、『痛み』を大きく分類した概念といえます。
全人的苦痛は、近代ホスピスの生みの親であるD.C.ソンダース先生によって提唱され、その当時、末期がん患者であるデビット・タスマ氏をケアしながら「死にゆく人がどうやったらやすらぎを感じるか,今の医療に欠けていることは何か」 について対話を行ったときに生まれた概念だといわれています。
がんの患者様は、単にがんによる痛みや食欲の低下、呼吸のつらさといった肉体の苦痛ばかりではなく、その方の人間そのもの、全人格的に苦痛を経験するのだという考え方です。(D.C.ソンダース先生については、別途紹介します。)
そして、ソンダース先生は、『全人的苦痛』を理解しやすくするために四つの苦痛に分類しました。

分類に入る前に、ここで緩和ケアについてもう一度定義を確認しておきましょう。

緩和ケアとは

生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確なアセスメントと対処(治療・処置)を行うことによって、苦しみを予防し、和らげることで、クオリティ・オブ・ライフを改善するアプローチである.。
(WHO 2002年 定訳)

つまり『苦痛』に対して、がん患者だけでなく、そのご家族にも寄り添ってケアを行い、QOLの向上を図るための概念です。
最後に緩和ケアを通して、医療従事者は、患者様達の痛みとどのように向き合っていくべきかを知って頂くために、改めてソンダース先生が提唱した4つの痛みについて触れていきます。

①身体的苦痛

身体的苦痛は、病気そのものからくる痛みや薬の副作用からくる痛みといったような分かりやすい不快な感覚です。
ここで分かりやすいという言葉は、その痛みの辛さが分かるということではなく、痛みを感じている場所が表現しやすいということを指します。

②精神的苦痛

精神的苦痛は、痛みが続くことで生じる不安や鬱状態、手術に対する恐怖、再発の不安といったように何となく想像はできても、理解をすることは非常に難しい(軽々しくは扱えない)難しい痛みであるといえるでしょう。

③社会的苦痛

「人間は社会的動物である」とアリストテレスが言い残したように、ギリシャ時代においても、人はポリス(共同体)を形成することで、社会生活を行っていました。
社会的活動は、人間における権利の一つともいえるでしょう。
そこから生じる苦痛として考えられる要素は、以下の通りです。

家族の問題

自身が働けないせいで家族に負担をかけてしまっているという申し訳なさなど。
患者様のご家族の立場なら、生きて欲しいという願いなど。

経済的な問題

仕事ができず収入が途絶えてしまうだけでなく、高額な医療費もかかってしまうため生じる不安など

仕事の問題

以前のように、バリバリと仕事が肉体的にも精神的にも取り組めるのか、またパート等では求人で雇ってもらえるのかという不安など

④スピリチュアル・ペイン(霊的苦痛)

スピリチュアル・ペインは、人間存在の根源的な苦痛とされているが、なじみが薄く、定義や認識が薄い為に捉えにくいため、難しい概念とされている。
スピリチュアル・ペインが独立している場合もあると考えられますが、①〜③のそれぞれの苦痛から生じるという包含関係ある痛みでもあります。
例えば、がんが再発してしまった場合や余命宣告を受けた場合、「どうして私はこんなに不幸なのだろう」と思ってしまうような痛みは、スピリチュアル・ペインに相当するといえます。

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