がんにならないために私たちにできること

がんの現状

がんは、正常な細胞の遺伝子が傷ついた際に細胞がエラーを起こして異常な細胞となり、そんな異常細胞が無秩序に増え続けて発生する病気を指し、81 年以来、がんは日本において死因の第1位となっている危険な病気です。
国立がん研究センターによると2017 年にがんで亡くなった日本人は約37万3千人となっており、これは国民の3.5人に1人ががんに罹患するということを指しています。
更にがん情報サービスの最新の統計によると、2021年にがんで亡くなった日本人は38万人を超えており、増加傾向にあります。このようにがんは国民病の一つといっても過言ではない時代になっています。
しかし、標準治療に加えて、本庶佑氏の「免疫抑制の阻害によるがん治療法の発見」いわゆる免疫療法の研究や米国立衛生研究所(NIH)に所属する小林久隆氏の開発した光免疫療法といった新しい治療法の確立といった医学的な研究の発展以外に、これまでの多くの研究からがんは生活習慣や環境を見直すことで予防可能であることも明らかになってきています。
では、生活習慣と生活環境についてどのように注意すれば、がん予防につながるのでしょうか?

がん予防のための12か条

冒頭の説明をみると、がんにおける現状は厳しいものだと感じる方も少なくないと思われます。
しかしがんに掛かってしまったとしても、適切な予防と検診によって、がんで亡くなることの多くは防げる時代にもなってきています。
がんの早期発見時における5年生存率は、例えば大腸がんは99.0%、また乳がん99.9%と非常に高確率となっています。
ここで、適切な予防についてですが、1978年の頃から当時の国立がんセンター研究所の杉村隆博士によって学問的な観点で予防可能とされる12項目を基に「がん予防の12 箇条」が、がん予防のための生活改善情報として提唱されました。
更にここから様々な研究を経て、2011 年に大きな改訂が行われて「がんを防ぐための新 12 か条」として新たに提唱されました。
がん研究振興財団から公開された「がんを防ぐための新12か条」は以下の通りです。(この「がん予防のための 12 か条」は、今後の研究の進歩により改訂される可能性もあります。)

がんを防ぐための新12か条
がんを防ぐための新12か条(英語)

具体的にがん予防のための12か条について
さて、ここでは上記で述べたがん研究振興財団から公開された「がんを防ぐための新12か条」についてどのように注意していく必要があるか一つずつ確認していきたいと思います。

(1)たばこは吸わない

日本人を対象とした研究によると、がんを予防するにあたって、喫煙しないことが一番効果的です。
煙草は肺がんをはじめ、食道がんや膵臓がん、胃がん、大腸がんなど、多くのがんの要因に関連することが示されています。
また、がんに罹患している方が煙草を吸うと、治療の効果を下げる原因になるとも考えられています。
一度も煙草を吸っていないことが理想的ですが、現状で喫煙者でも、禁煙することでがんになるリスクを下げることが可能です。

(2)他人のたばこの煙を避ける

非喫煙者でも、受動喫煙によって肺がんや乳がんのリスクは高くなってしまいます。
煙草は、自分だけでなく寧ろ周りにとって非常に有害です。
そのため、喫煙者は禁煙し、元々煙草を吸わない人はできる限り煙草の煙を避けて生活しましょう。

(3)お酒はほどほどに

日本人の男性を対象としたコホート研究によると、1日あたりの平均アルコール摂取量で、摂取量が23g未満の人と比較した際に46g以上の飲酒で40%程度、69g以上では60%程度、がん全体のリスクが高くなることが示されました。
特に飲酒は、肝細胞がん、食道がん、大腸がんに強い相関があり、男性に比べると女性はそこまで明確ではないものの乳がんのリスクが高くなるといわれています。
また、女性は男性以上に飲酒の影響を受けやすい体質にあり、より少ない量でがんになるリスクが高くなるという報告もあります。
そのため、飲む場合は純エタノール量の換算で1日あたり23g程度までに留めておき、飲まない人、飲めない人は無理な飲酒は控えましょう。

(4)バランスのとれた食生活を

以下のガイドラインで食事について説明しているため、ここでは簡単に述べておきます。
例えば、ハムやベーコンといった加工肉は、大腸がんのリスクを上げ、赤肉(鶏肉・魚は除く)は大腸がんのリスクを上げることに大方関連しているといわれています。
肉類の偏食をせず、バランスのよい食事を心がけることが大切です。

(5)塩辛い食品は控えめに

いくらや塩辛といった塩分濃度が特に高い食品を摂取している人ほど胃がんのリスクが高いことは男女ともにいわれています。
日本人の食事摂取基準においては、1日あたりの食塩摂取量について男性は7.5g未満、女性は6.5g未満にすることが推奨されています。(厚生労働省策定「日本人の食事摂取基準(2020年版)」より)
また、塩分を抑えることは、胃がんの予防以外にも、高血圧や循環器疾患のリスクの低下にもつながるため、減塩を心掛けましょう。

(6)野菜や果物は不足にならないように

「Ishihara et al. Glob Health Med Open. 2022」によると、野菜と果物摂取についてがんへの罹患または死亡に関連する割合は男性では、野菜0.3%、0.2%また果物0.1%、0.1%となっており、女性で野菜0.1%、0.1%また果物0.02%, 0.01%と試算されており、がんになるリスクが低いことが分かります。
また厚生労働省策定「健康日本21(第二次)」では、1日あたりの野菜の摂取量の目標を350gとしていますが、2019年の国民健康・栄養調査によると、二十歳の野菜、果物の平均摂取量は各々280.5 g、100.2 gとなっており、全体的に不足しています。
がんに限らず、野菜と果物摂取は、生活習慣病を予防する効果もあるので、出来る限り摂取を心掛けましょう。
因みに、果物も合わせた目安としては、野菜を小鉢で5皿分、そして果物1皿分を摂取すれば、約400g程度が摂取可能です。

(7)適度に運動

国立がん研究センターの研究報告では、身体活動量が高いほど、がんになるリスクが低下していたといわれています。
身体活動量が高い人は、がんは勿論心疾患のリスクも低くなるため、日常生活において可能な範囲で運動する時間を確保することが、健康につながると考えられます。
運動の目安としては、18〜64歳:歩行又は歩行と同等以上の強度の身体活動を1日1時間分行いましょう。
また、息がはずみ、汗をかく程度の運動は1週間に60分行いましょう。
65歳以上の高齢者:強度を問わず、毎日40分程度の身体活動を行いましょう。

(8)適切な体重維持

肥満度の指標であるBMI値が、男性の場合21.0~26.9で、女性は21.0~24.9のならばがんの死亡リスクが低いことがこれまでの研究によって示されています。
肥満は勿論ですが痩せすぎもまたがんによる死亡リスクが高まるので注意です。
国立がん研究センターの「がん対策研究所 予防関連プロジェクト.肥満指数(BMI)と死亡リスク 2011年」によるとがんの死亡リスクにおいて、男性については肥満体型よりも痩せ型の方が高い結果になっています。(ただし、煙草を吸わない場合、痩せ型でもがんの死亡リスクは高くならないといわれています。)
一方、女性の場合は、がんによる死亡リスクはBMI値30.0~39.9(肥満)で1.25倍高くみられ、特に閉経後においては、乳がんのリスクに肥満が関係していることが報告されています。
がんに限らず、健康のことを考慮すると、男性はBMI値21~27、女性は21~25の範囲を心掛けましょう。

(9)ウイルスや細菌の感染予防と治療

日本人のがんの要因として多く挙げられるのが「感染」です。
男女別でみると、女性は1番、男性で2番目に多いがんの要因とされています。
以下の表1のようなウイルス・細菌感染と、がんの発生との関連があるとされています。
いずれにおいても、感染したら必ずがんになるわけではありませんが、それぞれの感染の状況に応じた対応をとることで、がんの防止に結びつきます。

表1.ウイルス・細菌感染が原因となる各がんの種類

ウイルス・細菌感染が原因となる各がんの種類

地域の保健所や医療機関で、肝炎ウイルスの検査について一度は受けましょう。
感染している際は専門医に相談し、特にC型肝炎に感染している場合には、積極的に治療を受けましょう。
定期的に胃がんの検診を受けるとともに、ピロリ菌検査も受けましょう。
また除菌については主治医と相談した上で行いましょう。
肝炎ウイルスやピロリ菌に感染している際には、肝細胞がんや胃がんに関連深い生活習慣に気をつけましょう。
後述している「定期的ながん検診」でも述べていますが、定期検診を受けるようにしましょう。
年齢が該当する方は子宮頸がんワクチンの定期接種を受け、定期検診を受けるようにしましょう。
上記で示した感染について不安な際は、がん相談支援センター、医療機関に相談しましょう。

(10)定期的ながん検診を

定期的に健康診断を行うことは、がんの早期発見においても非常に重要になってきます。
がんの発見が初期のステージで治療を行う場合、5年生存率は9割を超えています。
出来る限り末期がんになる前に、治療可能な段階でがんを発見をすることが生存率に大きくつながります。
また、がんに限らず、健康体を維持するためにも、最低でも年1回は定期検診を受けるように心掛けましょう。

(11)身体の異常に気がついたら、すぐに受診を

例えば、乳がんの場合には、乳房のしこりや乳頭や乳輪に湿疹の発症、また乳頭から血性分泌液が出るといった症状が見られる場合には、乳がんの疑いがあります。
このように各がんにおいて、がんの疑いが見られる症状がそれぞれあります。
そういった症状を含めて、不審な症状が見られる場合には、すぐに病院へ受診しましょう。

(12)正しいがん情報でがんを知ることから

がんについては、食事療法といったような科学的根拠が全くないにも関わらず、例えば「にんじんジュースががんに効く」、「標準治療は有害で全く効果がない」等というようないい加減な情報が蔓延ってしまっていることも事実です。
国立がん研究センターや日本対人協会といった公的な機関のサイトを参考にして下さい。
また、国立がん研究センターでは、研究結果に基づいた情報を分かりやすく記載しているページもありますが、アカデミックな内容であれば、難しい内容のものもあります。
そういった時は、大病院の医師やかかりつけ医等に相談することもよいでしょう。
がんの治療はまだまだ未知の部分も多く、最新の内容については判断が難しいところも少なくないですが、自身の身体に向き合う際に知る必要がある際に向き合わなければならないときがあると思います。
そういった際に、然るべき公的機関に頼って頂くことが非常に大切です。
セカンドオピニオンについても同様です。

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