がんの化学療法について
化学療法といえば、一般的に抗がん剤を用いたがん治療のことを指します。
このがん細胞の増殖を抑制する効果やがんを死滅させる効果があります。
このことから抗がん剤(抗がん薬)のことを抗悪性腫瘍薬とも呼ばれています。
簡単にいってしまえば、抗がん薬という薬を体内に摂取し、がん細胞を破壊することで、治癒を目指す治療です。
また、抗がん剤治療といえば、「髪の毛が抜けてしまう」、「吐き気を催す」といったような副作用が激しいイメージもあると思います。
しかし近年では、抗がん薬をはじめ、様々な薬物を用いた治療法が用いられており、また抗がん薬においても様々な種類があります。
厳密には、抗がん薬を用いた治療法は薬物療法といわれており、化学療法は薬物療法の一種です。
近年の医療の劇的な進歩もあって、薬物療法は、外科療法や放射線療法と比べて細分化されているため、いきなり薬物療法や化学療法について理解することは非常に難しいでしょう。
今回は、化学療法とはどのようながんの治療法なのかについて、改めてひとつずつみていきましょう。
化学療法とは
化学療法の説明の前に、薬物療法について簡単に解説しておきます。
まず薬物療法とは、薬物投与によって、病変の増殖を抑制し、そして病変を縮小または消失させる治療法のことを指し、抗がん薬においては、がん細胞の増殖抑制とがん細胞の死滅作用を有しています。
また上記の薬物療法は、一般的に抗がん薬を用いる治療法であり、他にも指示薬療法や緩和ケアの際に疼痛を和らげるための薬剤を用いる治療法も薬物療法の一種に含まれます。次に抗がん薬の大まかな分類をしておきます。
抗がん薬は、大まかに「細胞障害性抗がん薬」、「分子標的療法」、「ホルモン療法(内分泌療法)」、「免疫チェックポイント阻害薬」の4つに分類されます。
この中の「細胞障害性抗がん薬」を用いた治療のことを化学療法といいます。
冒頭で述べた化学療法について上記を踏まえて説明し直すと、化学療法とは、「殺細胞性を有する細胞障害性抗がん薬(殺細胞性抗がん薬)を用いて、がん細胞の増殖や分裂を阻害する」治療法といえます。
細胞障害性抗がん薬は、一般的には点滴による治療を行います。
細胞障害性抗がん剤は、血液を介して身体中に拡がっているがん細胞や拡がっている可能性のある微細ながん細胞を治すための全身療法で用いられます。
ところが、局所的な進行がんに対しては、動注療法(太い静脈に直接抗がん剤を注入する治療法)を用います。
細胞障害性抗がん薬の種類
ここでは、細胞障害性抗がん薬の代表的な薬剤を6種類紹介します。
細胞障害性抗がん薬は、「代謝拮抗薬」、「アルキル化剤」、「トポイソメラーゼ阻害薬」、「微小管重合阻害薬」、「白金製剤」、「抗腫瘍性(抗がん性)抗生物質」が主に使用されています。
表1.代表的な細胞障害性抗がん薬の説明
最後に上述した各細胞障害性抗がん薬の特徴について、簡単に説明します。
①代謝拮抗薬
DNA、RNA(いわゆる核酸)の合成に要する代謝物質と化学構造が類似しており、核酸の合成に関係している酵素の阻害等によって、DNA複製やRNA合成を阻害します。
②アルキル化剤
構造中にアルキル基を有していて、DNAをアルキル化する薬剤であり、DNAのアルキル化によって複製、転写を阻害します。
③トポイソメラーゼ阻害薬
まずトポイソメラーゼ(topoisomerase)とは、細胞核にあるDNAの立体構造を維持、変化していくための酵素のことを指し、DNA複製時の螺旋を解消する働きをもっています。
つまりトポイソメラーゼ阻害薬は、DNA鎖の再結合を阻害する薬剤といえます。
④微小管重合阻害薬
微小管は、直径およそ25 nmの管状の構造になっており、チューブリンというタンパク質から構成されており、重合と縮重合によってその機能を果たしています。
微小管重合阻害薬では、この重合と縮重合を阻害することで、細胞分裂を止める薬剤です。
⑤白金製剤
白金製剤は構造中に白金(Pt)を含んでおり、DNAに結合することで複製、転写を阻害します。
⑥抗腫瘍性(抗がん性)抗生物質
抗腫瘍性(抗がん性)抗生物質は、元々抗生物質として開発されましたが、抗生物質の中でも殺細胞性を有している場合には、抗がん薬として使用されます。
細胞障害性抗がん薬の副作用
それでは細胞障害性抗がん剤によって引き起こされる副作用についてみていきたいと思います。
まずは、細胞障害性抗がん剤が何故副作用を引き起こすのかについて説明していきます。
細胞障害性抗がん薬は、一般的な薬剤と比較して、有効血中濃度が低いことから副作用を引き起こしやすいといえます。
これは細胞障害性抗がん剤は、がん細胞だけでなく正常な細胞も攻撃してしまうため、薬物有害反応(副作用)が出やすいというように言い換えられます。
次に細胞障害性抗がん薬の発現の様子をみていきましょう。
細胞障害性抗がん薬の副作用には、治療直後には吐き気や発熱がみられ、治療の翌日から1週間程度の期間にみられる症状は倦怠感、食欲不振、吐き気・嘔吐、下痢等の症状で、1~2週間以降からみられる症状としては口内炎、下痢、食欲不振で、更に2~3週間後には脱毛、皮膚の角化、手足の痺れ等の症状が発現します。
このように細胞障害性抗がん薬の副作用は、ある程度一定の間隔で発現しています。
さて、細胞障害性抗がん薬の副作用には症状の発現を自覚できるもの以外に、採血をしなければ判明しない副作用もあります。
具体的には、肝機能障害や腎機能障害、骨髄抑制、血液の異常(白血球減少や血小板減少、貧血など)が挙げられます。
これらの発現についてもある程度は規則的にみられます。
ただし患者様の容体によっては、副作用が発現する時期が早まったり、その症状が強く現れることがあります。
以下の表は、細胞障害性抗がん薬の副作用についてまとめたものになります。
表2.細胞障害性抗がん薬の副作用
上記以外の症状や症状を引き起こす細胞障害性抗がん薬もまだあります。
各症状の予防や治療については、支持療法が有効です。
【当該記事監修者】院長 小林賢次
がん治療をご検討されている、患者様またその近親者の方々へがん情報を掲載しております。ご参考頂けますと幸いです。