末期(ステージⅣ)の甲状腺がんの詳細な解説
甲状腺とは
甲状腺は、首の前部、喉仏の下に位置する蝶形の内分泌腺です。
甲状腺ホルモン(チロキシン:T4、トリヨードチロニン:T3)を分泌し、代謝、体温調節、心拍数、成長・発育など全身の機能を調節します。
また、カルシトニンを分泌し、カルシウム代謝に関与します。
甲状腺の異常は全身の健康に影響を及ぼし、甲状腺がんは甲状腺細胞の異常増殖により発生します。
甲状腺がんの種類と特徴
甲状腺がんは、主に以下の4種類に分類され、それぞれ異なる特徴と進行速度を持ちます。
●乳頭がん:全甲状腺がんの70-80%を占め、最も一般的である。リンパ節転移が起こりやすいが、進行は遅く、10年生存率は90%以上と予後が良好。若年層や女性に多い傾向。
●濾胞がん:10-15%を占める。血行性転移(肺や骨)が特徴で、進行は比較的緩やかである。予後は乳頭がんより少し劣るが、治療で良好な結果が得られる場合が多い。
●髄様がん:5-10%を占める。カルシトニンやCEAを産生し、家族性やRET遺伝子変異と関連がある。リンパ節転移が一般的で、進行速度は中程度。
●未分化がん:1-2%と稀だが、急速に進行し侵襲性が強い。治療が困難で、6か月生存率は約10%と予後が不良である。
その他、悪性リンパ腫や転移性甲状腺がんも稀に発生します。
末期の甲状腺がんの症状と進行
末期の甲状腺がん(ステージⅣ)は、がんが甲状腺を超えて周辺組織(気管、食道、喉頭など)に浸潤し、リンパ節や遠隔臓器(肺、骨、肝臓、脳など)に転移した状態です。
TNM分類に基づくステージⅣの定義は以下の通りです。
●乳頭がん・濾胞がん:T4b(高度な局所浸潤)またはM1(遠隔転移)。
●髄様がん:遠隔転移や高度な局所進行。
●未分化がん:多くが診断時にステージⅣ。
末期の甲状腺がんで現れる症状は、以下のようなものがあります。
●局所症状:首の腫瘤、圧迫感、痛み、嚥下障害、声のかすれ(反回神経侵襲)、呼吸困難(気管圧迫)。
●転移による症状:
・肺転移:咳、血痰、呼吸困難。
・骨転移:骨痛、病的骨折。
・脳転移:頭痛、めまい、意識障害。
・肝転移:腹痛、黄疸。
●全身症状:体重減少、倦怠感、発熱。
末期の甲状腺がんの進行は、未分化がんは数ヵ月で致命的になる場合があります。
乳頭がんや濾胞がんは緩やかに進行しますが、遠隔転移で予後が悪化します。
髄様がんは中程度の進行速度で、遺伝性の場合、早期発見が予後を改善します。
治療の選択肢とその効果
末期の甲状腺がんの治療は、がんの種類、進行度、転移状況、患者様の全身状態を考慮して選択されます。
主な治療法は以下の通りとなります。
●手術:
・適応:局所進行がんや切除可能な転移巣。
・内容:甲状腺全摘、リンパ節郭清、気管や食道の一部切除(根治または姑息目的)。
・効果:局所制御や症状緩和に有効だが、遠隔転移では限定的。
・限界:未分化がんや広範な浸潤では手術困難。
●放射線療法:
・外部照射:手術不能な局所進行がんや骨転移の疼痛緩和に使用。
・放射性ヨウ素(RAI)治療:ヨウ素を取り込む乳頭がん・濾胞がんの遠隔転移(例:肺転移)に有効。一部で長期制御が可能。
・効果:腫瘍縮小や症状緩和。
・限界:未分化がんや髄様がんはRAIに反応しない。
●薬物療法:
・分子標的薬:レンビマ(レンバチニブ)やソラフェニブは、進行性乳頭がん・濾胞がん・髄様がんに使用。VEGFやRET経路を阻害し、進行を遅延(無増悪生存期間を延長)。
・化学療法:未分化がんにドキソルビシンやシスプラチンを使用するが、効果は限定的。
・効果:腫瘍縮小、進行抑制、症状緩和。
・副作用:高血圧、手足症候群、倦怠感、下痢など。
●光免疫療法:
・概要:抗体に光感受性物質を結合させ、がん細胞に選択的に結合後、近赤外光を照射して破壊する新治療。
・適応:ステージ末期や手術不能例に有望な治療法。
・効果:腫瘍縮小、症状緩和(首の腫れ、痛み、嚥下障害の改善)。
・限界:光の到達範囲に限定される。遠隔転移には効果限定的な場合も有り。
●緩和ケア:
・疼痛管理、栄養支援、心理的サポートでQOL向上を目指す。光免疫療法は緩和ケアとの統合が期待される。
光免疫療法のメカニズム
光免疫療法は、がん細胞に特異的な抗体-光感受性薬剤複合体を用い、近赤外光を照射してがん細胞を破壊します。
薬剤ががん細胞表面の抗原に結合し、光照射で活性酸素や膜破壊を誘発します。
免疫反応の活性化も報告され、再発抑制に寄与する可能性があります。
●利点:
・正常細胞へのダメージが少ない。
・局所制御と症状緩和を同時に実現。
・他の治療(手術、放射線、薬物療法)との併用が可能である。
以下より当院の光免疫療法の詳細をご確認頂けます。
光免疫療法「末期がん治療と緩和ケアの融合」
光免疫療法は、末期甲状腺がん患者に治療と緩和ケアの両方を提供する新たな治療法です。
光感受性薬剤ががん細胞を標的とし、近赤外光照射で選択的に破壊します。
局所的な作用により、周辺の健康な組織への影響を最小限に抑え、腫瘍縮小による圧迫症状(呼吸困難、嚥下障害)を軽減します。
また、痛みや腫れの緩和やQOLの向上(活動性維持、家族との時間確保)といった効果も期待できます。
まとめと今後の展望
末期の甲状腺がんは、特に未分化がんを中心に予後が不良であり、治療は局所制御、症状緩和、生活の質(QOL)の向上を目標としています。
手術、放射線療法、薬物療法に加えて、光免疫療法は正常組織への影響を抑えつつ、治療効果と緩和ケアを両立する新たな選択肢として注目されています。
今後の展望としては、光免疫療法の適応拡大(遠隔転移や他のがん種への応用)、免疫療法や分子標的薬との併用研究の進展、AIや画像診断を活用した個別化治療の進化が期待されています。
末期の甲状腺がんの治療は日々進化しており、医師との密なコミュニケーションを通じて、希望と現実をバランスさせた最適な治療計画を立てることが不可欠といえます。
当院の光免疫療法の適応については、現在、甲状腺がん治療中の方でもお気軽にご相談ください。
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【当該記事監修者】院長 小林賢次
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