N-NOSEと聞けば、「線虫くん」というキャラクターが合唱をしながら、商品説明をする「HIROTSUバイオサイエンス」社のCMがお茶の間に浸透していると思います。
簡単に言ってしまえば、N-NOSEは、線虫の嗅覚の特性を利用して、特定のがんのリスクについて判定する検査方法です。
健康診断では、お金や時間を費やしてしまうが故に億劫になりがちな検査もN-NOSEでは、そのどちらの条件もクリアしているだけでなく、早期がんの発見にも有効性がみられており、いま非常に注目されている検査でしょう。
また、世界初線虫を用いた検査ということでも大きく取り上げられています。
そんなN-NOSEに関心をもっている方も少なくないと思います。
本ページでは、そんなN-NOSEについて、一歩踏み込んで解説していきたいと思います。
N-NOSEに使われている線虫ってそもそもどんな生き物という疑問を抱く方は少なからずいらっしゃると思います。
逆に線虫についての知識がある方は、かえって疑問に思う方もいらっしゃると思います。
そんな疑問を解消するために、ここで、線虫について一緒に見ていきましょう。
①線虫ってどんな生き物?
線虫の見た目は、無色透明で細長い糸状です。
体長は1mm未満のため、目視での確認は難しいでしょう。
線虫は、その大半が、土壌や海洋で生活をしており、特に土壌に多く生息が見られ、地球上でおよそ1.5割を占めているとされています。(因みに、線虫は線形動物といいます。)
上記で「線虫についての知識がある方は、かえって疑問に思う」と述べましたが、ここからは一般的に知られるネガティブな側面について述べていきます。
線虫の大半は自由生活な種だとされていますが、中には寄生型の線虫もいます。
寄生種は、主に「回虫」、「蟯虫(ぎょうちゅう)」、「アニサキス」、「マレー糸状虫」などがいます。この上位3つの名前を聞くとピンとくる方もいらっしゃるでしょう。
また、上記以外では、農業に対して悪い影響を及ぼすものもいます。
ここまでみると、線虫に対してあまり良くないイメージが大半だと思います。
それでは、何故、線虫が採用されているのか言及していきます。
②がん検査に向いているとされる線虫の特性
ここでは、N-NOSEの開発において、何故線虫が選ばれたかその特性を説明していきます。
因みに、N-NOSEで使用されている線虫は、C.elegans(シー・エレガンス)という種です。
線虫C.elegansは嗅覚が非常に優れており、これがN-NOSEの核になっている性質です。
この線虫C.elegansは、人間の約3倍の嗅覚を有しており、また現状では犬の1.5倍程度の嗅覚だと考えられています。
人間はその染色体上に、約400種類の匂い受容体遺伝子が存在しており、そのために約400種類の匂いが、判別できるとされています。
(このことは、1991年にコロンビア大学のRichard Axel博士とフレッドハッチントンがん研究所のLinda Buck博士によって研究されており、2004年にノーベル医学生理学賞を受賞しています。
因みに、匂い受容体遺伝子は、ものすごく簡単にいってしまうと匂いを判断するための機能と考えて下さい。)
つまり、線虫は人と比べて、約1200種類の匂いが嗅ぎ分けられるということですね。
実をいうと、がんに特有の匂いがあるのではないかという発想そのものは、90年代にも存在しており、生物を用いたがんへの判別の試みとして、「がん探知犬」が存在しており、1989年にイギリスにて、「がん探知犬」がメラノーマ(皮膚がんの一つ)を嗅ぎ分けたと報告されたことが最初期だとされています。現状において「がん探知犬」も今なお研究されており、その有用性はみられているものの、実際の医療現場での活用は厳しいとみられています。
もう一つは、線虫C.elegansの繁殖のしやすさです。
線虫C.elegansは、雌雄同体の生物なので、生殖行為無しで繁殖し、1匹あたり100~300の卵を産み、およそ3.5日程度で成虫まで成長し、再び産卵を開始します。
つまり数日周期で数百単位の線虫C.elegansを作り出すことが低コストで可能なのです。
さて、先ほど「がん探知犬」についてもお伝えさせて頂きました。
仮に「がん探知犬」が線虫C.elegansと同等、もしくはそれ以上の有効性があると考えて下さい。
「がん探知犬」は、選ばれた犬の中から長期間の特別な訓練が必要であり、なおかつ線虫C.elegansと比べると子孫を多く残しません。
これらを鑑みると、線虫C.elegansを用いることは、コスト的に非常に有効的なのです。
上記の2点が、線虫を試験として使用するのに有効だとされる理由です。
では、改めてN-NOSEはどういったものなのかについてみていきましょう。
N-NOSEのあらまし
N-NOSEは、長年、線虫の嗅覚研究をしてきた広津崇亮氏(HIROTSUバイオサイエンス社設立者)が、ある条件下で、線虫C.elegansが、尿からがんの匂いを検知し、がんに罹患しているかどうかを高精度に判別できることを発見したことから、 線虫の鼻(Nematode NOSE)、『N-NOSE』と名付けられました。
因みに、この線虫C.elegansの嗅覚についての研究は、2000年に「線虫の匂いに対する嗜好性を解析した論文」が、科学雑誌「Nature」で同氏によって発表されており、2012年7月には、線虫C.elegansにおいてタンパク質の素早い活性変化の可視化に世界初の成功を成し遂げた線虫の嗅覚特性の研究の先駆者です。
(因みに、C.elegansは、略さずに表記すると、Caenorhabditis elegansです。)
現在、N-NOSEで確認可能ながんは、
- 胃がん
- 大腸がん
- 肺がん
- 乳がん
- 子宮がん
- 膵臓がん
- 肝臓がん
- 前立腺がん
- 食道がん
- 卵巣がん
- 胆管がん
- 胆のうがん
- 膀胱がん
- 腎臓がん
- 口腔・咽頭がん
の15種類です。
因みに、注意しておきたい点としては、どの種のがんなのかまでの判定は現時点ではできません。
例を挙げるなら、子宮がんという判定は可能だけれど、それが、子宮頚がんなのか子宮体がんといった判別はできないという意味です。
ここからはN-NOSEのメリットとデメリットをみていきましょう。
①N-NOSEのデメリット
A)がんを診断できるわけではない
N-NOSEは、あくまでスクリーニング時のがんのリスクを判定するもので、がんの診断ではありません。
これは、N-NOSEの検査において、「がんのリスクが検出されなかった方」もがんに罹患していないと断言できず、 一方で「がんのリスクが高いと判定された方」も、必ずしもがんに罹患しているとはいえないといったことを指します。
ですので、いずれの場合も結果を出てから、医師に相談することも大切です。
B)心理的負担が大きい
これはN-NOSEに限ったことではありませんが、N-NOSEや腫瘍マーカーのように検査自体は簡便に行えるけれど、陽性と評価された際の心理的負担の大きさは避けられない問題でしょう。
①N-NOSEのメリット
A)早期発見が可能
N-NOSEの強みの一つとして、ステージ0、Ⅰの早期がんに対しても有効という点は不可欠でしょう。がんは、早期発見できるかどうかが、生存率に大きく関わってきます。一次検診(スクリーニング)の段階で、取りこぼさずにがんのリスクが検出できることは、早期治療においても非常に有効です。
B)安価
低コストで一次検診が行えることが、N-NOSEのもう一つの大きな強みの一つと言えるでしょう。
N-NOSEが低価格で行えるのは、上記で述べた線虫C.elegansの飼育コストの低さが大きく影響しています。
C)痛みがない
N-NOSEは、いわゆる尿検査なので身体的負担や不安なく治療が受けられることも利点として挙げられます。例えば、女性の場合、マンモグラフィは個人差があれど乳腺の圧迫により痛みを感じ、特に日本人は、人種の特性上、乳腺の密度が高いので、より痛みを感じやすいとされています。
こういった身体的負担を軽減できる検査が増えることは非常にありがたいですよね。
D)精度が高い
N-NOSEは、日本がん予防学会 、日本人間ドック学会 、日本がん検診・診断学会の共同研究機関の発表から、その感度は『86.3%』と報告されています。(2019年時点)
E)全身網羅的
N-NOSEでは、一回の検査で、上記で述べた15箇所のがんのリスク判定を行うことができる。
F)時間がかからない
N-NOSEでの検査の際は、わざわざ病院に行く必要がなく、自宅から尿を送るだけなので、時間も掛からず、簡単に検査を行えることも長所と言えるでしょう。
(ただし提出可能な地域を事前に電話等で確認する必要があります。)
【当該記事監修者】院長 小林賢次
がん治療をご検討されている、患者様またその近親者の方々へがん情報を掲載しております。ご参考頂けますと幸いです。