6種の免疫細胞を活性化させる「6種複合免疫療法」
2018年のノーベル生理学・医学賞を受賞した本庶佑先生によって、免疫療法は今や「第4の治療法」と呼ばれるまでに有名な治療法として広く認知されるようになりました。
今日のがん治療においても、オプジーボをはじめとした様々な薬剤の開発や併用治療が行われており、患者様の中でも治療時の奏功率や治療効果等についてご存知の方も多いと思います。その中でも、6種複合免疫療法についてはまだご存知ではない方や名前は知っているけれど具体的にどのような治療法なのかは分からないという方もいらっしゃると思います。
今回は、6種複合免疫療法とはどのような治療法であるのか一緒にみていきたいと思います。
まずは、6種複合免疫療法を説明するにあたって、通常の免疫療法と何が異なるのかについて説明する必要があります。
そこで、6種複合免疫療法について簡単に触れた上で、そこから免疫療法を考える上で重要とされる免疫の機能のシステムについて説明を行い、6種複合免疫療法の効果や現状について解説していきたいと思います。
6種複合免疫療法とは
6種複合免疫療法は、細胞免疫学を専門とする倉持恒雄先生によって開発された新しいがんの治療法です。
6種複合免疫療法は、抹消血中のリンパ球とNK細胞をフラスコ内で活性化、増殖させるといった培養方法が倉持先生によって発見され、またその後に6種類の免疫細胞(NK細胞、樹状細胞、ヘルパーT細胞、キラーT細胞、NKT細胞、ガンマ・デルタT細胞)を同時に活性化、増殖させることに成功したことで確率されたました。
簡単に言ってしまうと、6種複合免疫療法とは、従来のがん免疫療法では1種類の免疫細胞の活性化のみになってしまって不十分なため、6種類の免疫細胞を活性化させることによってより免疫システムを高める治療法です。
活性化させる6種の免疫細胞について
ここでは、6種複合免疫療法において活性化させる細胞について簡単に説明しておきます。
各免疫細胞への理解が深まれば、6種複合免疫療法の理解も容易になるので、是非目を通してみて下さい。
①NK細胞
NK(natural killer, ナチュラル キラー)細胞は、がん細胞や細菌感染した細胞等を発見次第破壊するリンパ球で、自然免疫において重要な役割を担っています。
NK細胞は、キラーT細胞と異なり、抗原提示細胞からの指示がなくても機能します。
②樹状細胞
樹状細胞は、体内に侵入してきた非自己物質(抗原)を発見し、抗原の情報をいち早くヘルパーT細胞に伝達することで免疫反応を促す役割を担っています。
このことから樹状細胞は、抗原提示細胞とも呼ばれます。
③ヘルパーT細胞
ヘルパーT細胞は、T細胞の一種で、マクロファージから抗原の情報を受け取ることでサイトカインを放出し、抗原の破壊役であるキラーT細胞や抗体を作り出すB細胞、マクロファージに対して免疫反応を促進させるための指令を出す役割を担っています。
④キラーT細胞
キラーT細胞は、T細胞の一種で、ヘルパーT細胞からの指令を受けることで、細菌感染した細胞やがん細胞を排除するヒットマンのような役割を担っています。
⑤NKT細胞
NKT細胞は、NK細胞とT細胞の性質を何方も兼ね備えている非常に万能な細胞で、自然免疫と獲得免疫の中間的な役割を担っているバランスのとれた細胞です。
⑥ガンマ・デルタT細胞
ガンマ・デルタT細胞は、NK細胞と同じリンパ球に分類され、がん細胞の表面に発現する分子を認識すると、抗原提示細胞からの指示がなくても強力な抗腫瘍作用によってがん細胞を破壊する役割を担っています。
がんを破壊するシステムについて
我々の身体が、がんを含めた大病を簡単に罹患しないのは、免疫機能が働いているお陰で、専門的にいえば免疫監視機構が働いているからといえます。
ここで、免疫監視機構が働いているにも関わらず、何故人はがんになるのかという疑問が生じるでしょう。
これは、免疫逃避機構といい、免疫細胞が「がん細胞」を認識できず見逃してしまうという現象が起こってしまうからです。
ここでは、そんな免疫を司る細胞(NK細胞やT細胞等)の問題点に焦点を当てて解説していきたいと思います。
まず、キラーT細胞についてみていきましょう。
キラーT細胞は、「MHCクラスⅠ分子」というタンパク質がキーポイントになります。MHCクラスⅠ分子とは簡単にいってしまうと「自分自身の細胞を自己としてであることの証」です。(自己とは、免疫の説明時に用いる際の専門用語です。)そして、自分自身の細胞は細胞の表面に「MHCクラスⅠ分子」を有しています。
またがん細胞も元々は自身の正常な細胞から生まれたものなので「MHCクラスⅠ分子」を有しています。このときには、「MHCクラスⅠ分子」が非自己とみなされないので、マクロファージががん細胞を食べても「MHCクラスⅠ分子」は消えません。そして「MHCクラスⅠ分子」が非自己の抗原と結合します。しかし、がん細胞は「MHCクラスⅠ分子」を隠してしまうため、T細胞は気づかずに見逃してしまいます。(これを免疫逃避機構といいます。)
次にNK細胞です。NK細胞は抗原に依らずがん細胞のような異物を自ら発見できるセンサーを有していることが特徴です。NK細胞はがん細胞への攻撃力は高く、がん細胞が「MHCクラスⅠ分子」の発現を隠していてもセンサーによって発見が可能です。ところが、NK細胞のセンサーを掻い潜って生き延びてしまうがん細胞も一定数存在します。
そんなNK細胞のセンサーから逃れたがん細胞を破壊する免疫細胞も存在し、この免疫細胞をNKT細胞といいます。
NKT細胞は今からおよそ30年前に発見された新しい免疫細胞でNK細胞とT細胞どちらの性質も兼ね備えた非常に強力な免疫細胞です。
NKT細胞の活性化は、樹状細胞の活性化につながるだけでなく、抗がん剤にも強い性質もみられるといわれているため、併用治療にも有効です。
更に近年では、ガンマ・デルタT細胞という非常に強力な殺傷能力を有した免疫細胞も確認されています。
6種複合免疫療法の考え方
ここでは、6種複合免疫療法の生みの親である倉持先生の見識に基づいて、6種複合免疫療法がどのようにして誕生したのかみていきましょう。
「がんを破壊するシステムについて」で、がん細胞への免疫機能の働きをみて頂いたことで、いろいろな免疫細胞が連携して免疫機能が働いていることが分かって頂けたと思います。ここで従来のがん免疫療法を確認すると、樹状細胞やキラーT細胞、NKT細胞のうちの一つをピックアップして培養しているものが殆どとされています。
免疫機能はそれぞれが協力して連携することで強い効果を発揮するにも関わらず、免疫細胞の一つだけを活性化させても効果が十分に発揮されないのではないかという問題提起から複数の免疫細胞を活性化させるべきではないかという考えに至り、そこから研究が重ねられました。冒頭でお伝えした通りキラーT細胞とNK細胞の同時培養に成功したことをきっかけに更なる研究を行われ、今の6種複合免疫療法が誕生しました。
つまり6種複合免疫療法は、6種類の免疫細胞(NK細胞、樹状細胞、ヘルパーT細胞、キラーT細胞、NKT細胞、ガンマ・デルタT細胞)が連携してがん細胞をやっつけやすくするための補助剤というようにまとめられます。
6種複合免疫療法の現状について
最後に、6種複合免疫療法の治療の現状について説明しておきます。
6種複合免疫療法は、一部白血病を除いたある程度のがんに対応しており、転移がんや再発したものにも有効です。更に6種複合免疫療法は、難治ながんや進行がんにも有効で再発した際にもがんの進行の抑制やがん細胞の縮小も可能です。また6種複合免疫療法では、標準治療や代替療法との治療の併用も可能です。そして医師の診断にも寄りますが、がん以外の疾患があるまたは末期がんの患者様でも治療が可能です。
また現時点において、6種複合免疫療法は自由診療で、保険適用外です。
【当該記事監修者】院長 小林賢次
がん治療をご検討されている、患者様またその近親者の方々へがん情報を掲載しております。ご参考頂けますと幸いです。