お酒を飲むとがんになりやすい!?飲酒における発がんリスクを知ろう!!
日頃からがん予防を心がけている方だと、がん情報サービスで公開されている「日本人のためのがん予防法(5+1)」やがん研究振興財団によって公開されている「がんを防ぐための新12か条」を目にしたことがあると思います。
発がんリスクの高いものとして喫煙(受動喫煙含む)や感染症は、何となくがんになりやすいというイメージを抱きやすいと思いますが、飲酒についてはどの程度の摂取量から身体に有害なのか判断することが難しいと思います。また飲酒をした際には、人によって個人差がありますが酔っ払ってしまうことは知っていても何故お酒を無理に飲むと二日酔いになるのかをご存じの方は少ないでしょう。
そして、実は二日酔いの要因となる物質と発がんリスクには大きく関係していることは大きく関係しています。
今回は、飲酒と発がんリスクの関係について触れていきたいと思います。
アルコールに含まれる発がん性物質について
人はアルコールを摂取した際に、体内でアルコールはアルコール脱水素酵素という酵素の作用によって酸化されることでアセトアルデヒドに変化し、更にアルデヒド脱水素酵素によって酸化されることで酢酸に変化します。
このときに生じるアセトアルデヒドという化学物質が酔いの原因であり、発がん性を有する有害な物質なのです。
ここで各酵素についても説明しておきます。
①アルコール脱水素酵素(Alcohol Dehydrogenase, ADH)
アルコール脱水素酵素(Alcohol Dehydrogenas, ADH)とは、アルコール(のヒドロキシ基)を酸化させてアルデヒドに変える反応を手助けする酵素のことを指します。アルコール脱水素酵素はアルコールデヒドロゲナーゼともいわれます。
②アルデヒド脱水素酵素(Aldehyde Dehydrogenase, ALDH)
アルデヒド脱水素酵素(Aldehyde Dehydrogenase, ALDH)とは、アセトアルデヒド(のアルデヒド基)を酸化させて酢酸に変える反応を手助けする酵素のことを指します。アルコール脱水素酵素はアルコールデヒドロゲナーゼともいわれます。
つまりお酒に強い人は、飲酒をした際に、体内にアセトアルデヒドが残らない体質という風にも言い換えられますね。
またアセトアルデヒドは、実験動物においても発がん性を確認しており、頭頸部と食道のがんの原因になります。
アセトアルデヒドはDNAやタンパク質と結合しやすい性質を有しているため、発がんをはじめとした種々のアルコール性臓器障害に関与するといわれています。また口腔内や消化管内は、常在細菌によってエタノールから高濃度のアセトアルデヒドが生成されるため、特に高濃度のアセトアルデヒドに暴露されます。
ただし、アセトアルデヒドは食品添加物として超低濃度で含まれているものもありますが、それらは発がん性には関係ないといわれています。因みに、アセトアルデヒドは煙草からも確認されています
。
では、アセトアルデヒドはどのようにして体内で分解されるのか次節でみていきましょう。
アセトアルデヒドが体内で分解される仕組み
先ほどはアルコールを摂取した際に、体内に発生するアセトアルデヒドはアルデヒド脱水素酵素(Aldehyde Dehydrogenase, ALDH)によって分解されることを確認しました。実は、アルデヒド脱水素酵素は、血中のアルデヒドが低濃度の際に働くALDH2と呼ばれる酵素と高濃度の際に働くALDH1と呼ばれる酵素の2種類に分類できます。
つまり、アセトアルデヒドの濃度に応じて、各アルデヒド脱水素酵素が働き、体内で酢酸に変化させることでアセトアルデヒドが分解される仕組みになっています。
ここからは、ALDH2とALDH1についてそれぞれみていきましょう。
①ALDH2(2型アルデヒド脱水素酵素)
ALDH2は、アルデヒド脱水素酵素の1種で、血中アルデヒド濃度が低いときに触媒として働く酵素で、非常に強力に働きます。
ALDH2は、3種類の遺伝子型が確認されており、遺伝子型をみることでお酒がどの程度飲めるか判別することが可能です。ALDH2には、お酒に強いNN型(正常型ホモ接合体)とお酒は飲めるけれど顔に反応が現れやすいMN型(ヘテロ接合体)、全く飲めないMM型(変異型ホモ接合体)があります。
表現を変えるとNN型はALDH2が正常活性される遺伝子型であるのに対して、MM型はALDH2がほぼ活性しない遺伝子型であるといえます。
また、ALDH2欠損がみられる方も中には存在し、ALDH2が欠損していると低濃度の際にアセトアルデヒドを分解してくれないので簡単に酔いやすく、少量のお酒でも飲酒の際にフラッシング反応がみられます。
②ALDH1(1型アルデヒド脱水素酵素)
ALDH1は、アルデヒド脱水素酵素の1種で、血中アルデヒド濃度が高いときに触媒として働く酵素で、ALDH2と比べると緩やかに働きます。
つまりお酒に強い人は、更に言い換えれば、飲酒をした際にALDH2が強く働く人だといえます。
それでは、次節ではこの「ALDH2」に着目した上で、アルコールの発がんリスクについてみていきたいと思います。
ALDH2からみるアルコールの発がんリスクについて
まず、アルコール脱水素酵素やアルデヒド脱水素酵素の活性は遺伝子で決まります。
ADH1B(1B型アルコール脱水素酵素)の活性が特に弱いタイプは、日本人ではおよそ5〜7%程で、このタイプではアルコールが長時間体内に残るのでアルコール依存症になりやすく、3割前後といわれています。
またALDH2の活性が低い(MN型やMM型)は、日本人では約4割程みられ、このタイプはアセトアルデヒドの分解に時間がかかるので、フラッシング反応や二日酔いを起こしやすい体質です。1〜2割程といわれています。
更にアルコールとアセトアルデヒドは発がん性を有しており、アルコール脱水素酵素やアルデヒド脱水素酵素の活性が弱い人が、お酒を飲む習慣をつけてしまうと頭頸部がんや食道がんの発がんリスクが特に高くなります。
頭頸部がんと食道がんは1人において複数発生する傾向にありますが、飲酒と喫煙においては特に相乗的に多発がんの危険性を高め、加えてALDH2の活性が低い場合には特に多発がんが多くみられます。
次に日本人のALDH2に着目していきたいと思います。
日本人は世界で一番お酒に弱い
上述した通り、日本人のおよそ4割が、ALDH2の活性が低いとされているのに加えて、更におよそ4%はALDH2が欠損しており、お酒が飲めない体質とされています。
この酵素の活性は親からの遺伝によるものなので、先天的に決まっています。
そのため飲んでいてお酒に強くなるということはありません。
実は、ALDH2の活性が低いのは、モンゴロイド系特有のもので、ヨーロッパ系やアフリカ系ではあまり多くみられません。
またモンゴロイド系の中でも日本はALDH2があまり働かない割合が44%と半数近くおり、世界的にみても非常に多いです。
因みにインドでは5%といわれており、アメリカ系だと2〜4%程度です。
日本人は人種的にお酒に弱いといえます。
また遺伝以外にも、体重差や性差、年齢差等も考慮する必要があるといわれています。
お酒に発がん性があることが認められている
お酒とがんの関係性では、各機関から次のように発表されています。
まず米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology, ASCO)において、2017年にアルコールは、頭頸部がんをはじめ食道がん等の複数のがんと因果関係があることを発表しており、主な要因としては過度の飲酒また長期的な異種とされていますが、アルコールの摂取量が適度でも発がんリスク上昇の可能性があるといわれています。またお酒の種類には関係ないため、アルコールは危険因子であるといえます。因みに米国臨床腫瘍学会によると、全くお酒を飲まない人の発がんリスクを1とした際に、過度な飲酒のする人の発がんリスクは2.65倍で特に 口腔がんと咽頭がんについては発がんリスクが5.13倍になることがわかったといわれています。
そして世界保健機関(World Health Organization, WHO)において、アルコールは頭頸部がんや食道がん(のうちの扁平上皮がん)、肝臓がん、大腸がんそして女性の乳がんの要因として認定しています。アルコール飲料中のエタノールとその代謝産物のアセトアルデヒドの両者に発がん性があり、少量の飲酒で赤くなる体質の2型アルデヒド脱水素酵素の働きが弱い人では、アセトアルデヒドが食道と頭頸部のがんの原因となるとも結論づけています。WHOは昔の段階で、タバコやアスベストに並んでアルコールを発がん性物質のグループ1に指定しており、少なくとも7種類のがんを引き起こす要因として扱っていました。昔はお酒は少量であれば健康に良いというイメージがありました(特に日本では「酒は百薬の長」という諺もあることから適量なら身体いいと思っている方もいらっしゃると思います。)が、近年では少量の飲酒でも発がんリスクがあることを発表しています。更に、国際がん研究機関(International Agency for Research on Cancer, IARC)によると、2020年にはアルコールの摂取が関連しているがんを発症者の数が新たに74万人いたことが報告されています。これは同年新たにがんと診断された全てのがんの4.1%に相当するといわれています。このことは、Harriet Rumgay氏らの研究から報告されており、詳細を知りたい方は『The Lancet Public Health』という専門冊子を読んでみて下さい。
簡単にまとめると
- お酒は種類によらず、がんのリスクがある
- お酒は少量でも発がんリスクがあり、特に頭頸部には関連してくる(お酒は飲まない方がよい)
ということです。
お酒が好きな方もいらっしゃると思うので、そういった方の場合は無理に制限するとかえってストレスになるので、禁酒するまではいかなくてもお酒を飲む量は一考するべきでしょう。また付き合い等で無理に飲んでいる場合は、今すぐにでも止めましょう。
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【当該記事監修者】院長 小林賢次
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